東京と埼玉で相次いだ強盗事件。このうち、所沢市の事件で逃走中の男が3日に公開手配されました。かつてのルフィの事件と同様、犯人たちは闇バイトの呼び掛けに応じて集まったものとみられています。
事情に詳しい人物は、この種の闇バイトはルフィ事件以降減るどころか、むしろ人が簡単に集まるようになってきたと指摘しています。
■前日の事件にも関与か
埼玉県警が3日に公開したのは、逃走中の森田梨公哉容疑者(24)の写真です。森田容疑者は1日、埼玉県所沢市の住宅に押し入り、80代の夫婦を粘着テープのようなもので縛ったうえ、刃物のようなもので切り付けた疑いが持たれています。所沢市での事件後、森田容疑者は新小平駅から深夜3時ごろ、タクシーで東村山市に移動していたことが分かっています。
同じく実行役として海藤貴志容疑者(43)、佐藤聖峻容疑者(24)、和佐裕夢容疑者(28)の3人がすでに逮捕されています。
さらに、森田容疑者が事件の直前、県内のコンビニを歩く映像も公開されました。現場周辺にあるコンビニの駐車場では、犯行に使われた筑豊ナンバーの車が見つかっています。この車を森田容疑者が運転していたとみられます。
前日である先月30日に東京・国分寺市で起きた事件で、現場付近にある防犯カメラに映っていた男が森田容疑者でした。
■森田容疑者“高校球児”の顔も
森田容疑者の出身は福岡県で、幼少期から野球をはじめ、高校時代も野球部で試合に出場するなど、3年間熱心に取り組んでいたといいます。
子どものころから、森田容疑者を知る人は…。
森田容疑者の後輩
「後輩の面倒見がよかった。最近は東京で働いていると聞いていて、あまり会っていなかった。今でも信じられない」
■“同じアカウント”が犯行指示か
同じ指示役の犯行とみられる事件は先月18日から始まっていました。さいたま市西区の住宅に押し入り、女性2人にけがをさせ、現金約10万円を奪った事件では、渡辺陸容疑者(24)ら4人が逮捕されています。
一連の事件を改めて整理します。まず、先月18日にさいたま市西区の強盗事件。その後、30日に東京・国分寺市で同様の事件が発生。4人ほどが事件に関与しているとされていますが、まだこの事件に関する逮捕者は出ていません。ただ、その翌日、埼玉県所沢市で起きた事件で、4人のうち3人が逮捕され、このうちの佐藤容疑者と森田容疑者が国分寺での事件にも関与しているとみられています。
捜査関係者によると、これら3つの強盗事件で、指示役は同じアプリの同じアカウントから指示を出していたとみられます。連絡ツールは、秘匿性の高い『シグナル』というアプリ。ITジャーナリストの三上洋氏によると、セキュリティー上の安全性から、アメリカ上院議員の間でも連絡手段として使われるほど、秘匿性が高いアプリだといいます。
いわゆる“ルフィ事件”で使用されていた『テレグラム』よりも秘匿性が高いといいますが、警察が持つ、海外製の復元装置でデータの復元はできるそうです。
さいたま市の事件で逮捕された容疑者の1人は、取り調べでこう供述しています。
矢作雄馬容疑者(34)
「SNSで高額バイトを検索して興味を持った。身分証を送った後に、実は違う案件だと聞かされた。闇バイトをしたことを後悔している」
また、他の容疑者も当初は「ドライバーの仕事」「ホワイト案件」などという書き込みに反応してアクセスしたと供述しています。結局、報酬は受け取れなかったといいます。
■闇バイトに「簡単に人集まる」
かつて闇名簿を扱っていた人物には、今もありとあらゆる情報が持ちこまれるといいます。まず、応募してくる人の変化。
闇バイトの事情に詳しい元名簿業者
「元々は17~18とかの年齢だったが、かなり上がっているので、その辺は変化していると思います。(Q.闇バイトという言葉を知らなかった層も?)知るようになったからでしょうね。(応募者は)昔に比べ想像以上に多い」
元々はグレーな仕事から入り、徐々に犯罪へと加担させるのが、この世界の常套手段だったといいますが…。
闇バイトの事情に詳しい元名簿業者
「次は7万円、次は10万円の仕事って増やしていく。(Q.10万円くらいになると違法)そのやり方。それが人集めだった。(Q.今はどうなんですか)今は違う。いきなり(違法)。だからなんで(最初から)そんなことに手を染めるのか逆に分からない」
こうした状況に主犯格が考えていることとは…。
闇バイトの事情に詳しい元名簿業者
「簡単に人が集まるから、次から次へ手をうてばいいやと。雨後のタケノコみたいに当たればもうけもの。10件やって1件うまくいけばいいという感覚。(Q.応募してくる人をどう思っている)使い捨ての駒ですよ、あきらかに」
■横行する“闇バイト”対策は
闇バイトに対するハードルの低さが、犯罪につながっている現状があります。
例えば、指示役はSNSで「初心者大歓迎」「リスク無し」「高校生でもいける」など、気軽な言葉で実行役を募集します。なかには闇バイトと気付かずに応募して、身分証などを送信した結果、個人情報をたてに犯罪を強要されるという流れです。
闇バイトはどれぐらい横行しているのでしょうか。
警察庁は、民間団体に委託して、闇バイトの募集や殺人の勧誘などのネット上の“有害情報”を収集して分析しています。闇バイトに関する統計を取り始めた2023年9月からの3カ月間には、4876件の“有害情報”のうち、闇バイトの実行役を募集する情報は4411件と実に9割を占めています。また、今年上半期(1月~6月)の統計では8333件のうち8161件と、こちらも9割以上を占めています。
警察庁担当の石塚翔記者によると、闇バイトを募集する言葉は日々変化しているということです。
例えば闇バイトを表す言葉は『灰色』という隠語が使われ、一見しただけでは分かりにくくなっていて、なかなかあぶり出せないということです。こうした“有害情報”は、民間団体から警察に通報したり、サイトの管理者に削除を依頼したりするなど、減らす取り組みが行われています。
ただ、ネット上から“有害情報”を削除しても、手を替え品を替え犯行が続き、いたちごっこのようになっています。
石塚記者によると、犯行の指示役をあぶりだすために、警察官が身分を隠して犯行グループに近付くような捜査も行っているといいます。ただ、指示役から身分証の提示を求められた場合、本物の身分証を提出するわけにはいかず、公文書偽造になるため偽物の身分証を作ることもできないため、難しい現状があります。警察内部からは、そうした条件をクリアするための法整備が必要といった声も上がっているといいます。
テレビ朝日