2024年はイーロン・マスク氏の改革により変貌する「X」と、他のテキストSNSによる覇権争いが続いた一年だった。その一方で、新しい仕掛けで若者を魅了する「BeReal.」は、好調にビジネス展開を進めている。2025年のSNSの動向はどうなるのか、2024年を振り返りつつ推察する。
■「X」の対抗馬として名乗りを挙げた「mixi2」
2024年12月16日、新たなSNSが突如現れた。MIXIがリリースした短文共有SNS「mixi2」だ。2004年にリリースした国産SNS「mixi」の運営会社によるSNSであるため、かつてmixiを愛した中年たちから大きな期待と注目を集めた。しかし、mixiとmixi2は別のサービスであるという。
mixi2は、テキストを中心としたSNSだ。つまり、「X」の対抗馬として名乗りを上げたこととなる。
2024年のXは、「インプレゾンビ」に悩まされた。インプレゾンビとは、Xが2023年8月に開始した「クリエイター広告収益分配プログラム」の報酬目当てで、バズった投稿に群がるアカウントだ。インプレッション(閲覧)数に応じて収益が割り振られるため、閲覧数の多いポストにリプライしたり、「トレンド」に上がっているキーワードを含んだポストを行う。botのような日本語やアラビア語などの言語で大量のポストを行うため、その様子が「ゾンビ」に例えられ、インプレゾンビと呼ばれた。
2024年1月1日に起こった能登半島地震では、インプレゾンビがまき散らすデマや偽情報により、正しい情報の共有や円滑な救助を妨げる事態に発展した。災害大国である日本は、これまで旧Twitterのリアルタイム情報が救済に結び付いた場面も多く、この悪習は大きな痛手だ。
現在もポストの投稿主が、「このアカウントからは返信させない」と設定するなどの自衛策はあるが、完全にインプレゾンビを防ぐ方法はない。Xは10月に収益配分プログラムの変更を行い、投稿の返信欄に広告が表示されても、収益は発生しないように改めた。この措置により、インプレゾンビは以前よりも減少したともいわれている。しかし、収益を受けるために必要な“青いバッジ”をつけたインプレゾンビは、いまだXを徘徊している。
他にイーロン・マスク氏による仕様変更で注目されたのは、ブロックした相手もポストを見られる「ブロック貫通」や「いいね非表示」だ。ブロック貫通についてXは、「透明性の向上」を理由としている。ブロックした相手に関する有害な情報や個人情報を隠れて共有できなくなる。「いいね非表示」とは、他のユーザーの「いいね」が見えなくなるということ。プロフィールにあった「いいね」欄は本人のみ、ポストに対する「いいね」は投稿主のみが見られる。これは、気兼ねなくいいねできるようになり、交流が活発化することを狙ったものだ。
CEOリンダ・ヤッカリーノ氏はテレビ東京の独占インタビューにおいて、「Xは動画中心のプラットフォームに進化する」と答えている。テキスト中心のプラットフォームから、YouTubeやTikTokが築いた動画プラットフォームへ参戦していく意向だ。意外な方向転換にも思えるが、イーロン・マスク氏がTwitter買収時に目指すと話していた「スーパーアプリ」への一歩だとすると納得がいく。今後、開発を進めている生成AI「Grok」とともに、決済機能も有するスーパーアプリへと歩みを進めるのだろう。
■Xの代替候補はユーザー数が多い「Threads」か
Metaが2023年7月にリリースした「Threads」は、新機能を続々とリリースし、ユーザー数の拡大を続けている。マーク・ザッカーバーグCEOは12月16日(現地時間)、MAU(月間アクティブユーザー数)が3億人、DAU(日間アクティブユーザー数)は1億人を超えたと発表している。
Threads開始当初は、「汚いInstagram」と呼ばれるなど、映え重視のInstagramとの比較が多かった。現在も、「おすすめ」を見ているとネガティブな投稿が多く見られる。
とはいえ、ユーザー層はInstagramとほぼ同じで女性の割合が多いため、Xでは見られない女性の本音や交流が行われるなど、特色が出てきた。
2024年7月には「Threads1周年」を記念してアイコンがパーティハットをかぶれる機能を期間限定でローンチしたり、年末に年越しそばを無料で1杯提供するリアルイベント「年越しそばをすすれっず by Threads」を開催するなど、ポジティブなプラットフォーム作りを目指している印象がある。
Xの代替アプリとしては、Twitter(現X)共同創業者のジャック・ドーシー氏が立ち上げた分散型SNS「Bluesky」も有力視されている。Blueskyのユーザー数も増加しており、2024年11月にはジェイ・グレイバーCEOがユーザー数2000万人突破を公表している。
現在のところThreadsが優勢と見えるが、Xの様子を見ているとヘビーユーザーはサブスクリプションに課金し、活発に利用している。おそらくXのヘビーユーザーは、今後もXにとどまり続けるのではないだろうか。一方、Xのライトユーザーは、複数のSNSを併用して様子を見ている。2025年はSNSの併用に疲れ、居場所を絞り始めるユーザーが増えそうだ。
■BeReal好調により若者マーケティングへの活用
通知が来たら2分以内に投稿する「BeReal.」は、2024年もZ世代から支持された。LINEリサーチが行った「若年層の流行に関する定点調査」(2024年9月期)で、「BeReal.」は総合1位となっている。
実は、2024年6月にフランスのBeReal社は、同じくフランスのゲーム会社Voodoo社に買収されている。CEOはVoodooのアイメリック・ロフェ氏に交代した。アイメリック・ロフェ氏は就任直後からBeRealの広告事業の開始を発表し、2024年7月には日本での広告事業を本格化している。
サイバーエージェントは2024年8月にNetflix初のオリジナル学園ドラマ「恋愛バトルロワイヤル」のプロモーションをBeRealで展開、BeRealの画面を模した広告を出稿し、認知拡大に成功した。若者に人気の俳優たちが高校生活を舞台にしたドラマを演じているため、BeRealのユーザー層にマッチしたと考えられる。
2024年2月には、公式アカウントの提供も開始している。DiorやUCLAなどが公式アカウントを開設、日本ではコムドットやまとさんや、通販サイト「Qoo10」が公式アカウントを運営している。
BeRealの国内の月間利用者数(MAU)は450万人を突破した。クローズドな空間でリアルな友人とリアルな時を共有する仕掛けは、今も若者の心をつかんでいる。2024年のBeRealは若者が楽しむSNSという側面にとどまらず、ビジネスの伸びしろを十分に感じさせた。Z世代ターゲットの企業にとっては、広告出稿や公式アカウント開設など、ビジネス活用を検討する時期が来ている。
■2025年はプラットフォームの健全化がカギ
2024年のSNSには、Metaの「なりすまし詐欺広告」、闇バイトなど、社会問題に発展する事象も多く発生した。オーストラリアでは16才未満のSNS禁止法案が可決するなど、海外においても厳しい状況が続いている。一方、アメリカのトランプ次期大統領は、2025年1月に施行される予定の「TikTok利用禁止法」への対応をTikTokの周受資CEOと協議しており、救済策を探っているといわれている。
SNSが単なるネット上のエンターテインメントではなくなり、社会へ大きく影響するプラットフォームへと進化してきた。2025年早々に、国内でもInstagramが10代を保護するための機能「ティーンアカウント」を開始する。2025年は誰もが安心して利用できる健全なプラットフォーム作りが望まれる年になりそうだ。