無糖の炭酸水を飲み過ぎた場合、歯を溶かしてしまう可能性はあるのでしょうか。歯科医師に聞きました。
炭酸水の飲み過ぎで歯が溶ける?
近年、健康志向の高まりにより、無糖の炭酸水が人気を集めています。砂糖が入っていないため、つい多く飲みがちですが、ネット上では「コーラなどの炭酸飲料を飲むと、歯を溶かす」という内容の情報があります。
コーラのような砂糖入りの炭酸飲料だけでなく、無糖の炭酸水を飲み過ぎた場合も、歯を溶かしてしまう可能性はあるのでしょうか。千葉センシティ矯正歯科(千葉市中央区)院長で歯科医師の石川宗理さんに聞きました。
摂取頻度が高いと「酸蝕症」のリスク
Q.ネット上では「コーラなどの炭酸飲料を飲むと、歯が溶ける」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。
石川さん「本当です。そもそも、歯はエナメル質という人体の中で最も硬い組織に覆われていて、主に『ハイドロキシアパタイト』という成分で構成されています。
歯が溶ける現象には『pH(ペーハー/ピーエッチ)』と呼ばれる水の性質が強く関係しています。pHは0~14の数値で表され、pH7を中性とし、7より小さい場合は酸性、大きい場合はアルカリ性と呼びます。
歯の主成分のハイドロキシアパタイトは、pH5.5~5.7以下の『臨界ペーハー』を超える酸性の環境下に一定期間以上置かれると脱灰、すなわち歯が溶け始めます。歯が溶ける原因にはう蝕(虫歯)と酸蝕症がありますが、違いは次の通りです」
■う蝕(虫歯)
口腔(こうくう)内の虫歯原因菌が、食べ残しから栄養を得た後、代謝により酸を生産します。その酸により、口腔内が臨界ペーハーを超えて酸性の度合いが強まり、歯が溶け始めます。これをう蝕(虫歯)といいます。
■酸蝕症
コーラのような砂糖入りの炭酸飲料やスポーツドリンク、エナジードリンクなどの酸性の飲料の摂取のほか、酢やビタミン剤、レモン、クエン酸などの酸性の食品の摂取、胃液の逆流などが原因で口腔内が臨界ペーハーを超え、酸性の度合いが強まると、歯が溶け始めます。このように酸性の物質が原因で歯が溶けることを酸蝕症といいます。
すなわちコーラは、糖質を原因とした「う蝕」と「酸蝕症」のどちらのリスクもあるため、歯が溶けるという表現が当てはまるわけです。
Q.では、無糖の炭酸水を飲み続けた場合も酸蝕症になる可能性があるのでしょうか。
石川さん「無糖の炭酸水はう蝕のリスクはありませんが、炭酸水自体のpHは一般的に4.3〜5.5程度といわれており、臨界ペーハーを超えてしまうため、先述の酸蝕症を引き起こすには十分と考えられます。
胃の中に入れること自体は問題ないのですが、歯がどれだけ酸にさらされるかによります。唾液には酸性になった口の中をアルカリ性に戻す能力があります。しかし、これにはある程度の時間を要するといわれています。
高頻度で長い時間ちびちびと、歯に当たるような飲み方で炭酸水を飲むと、酸蝕症のリスクが非常に高くなります。酸蝕症が進むと、歯が溶けて歯が失われていき、虫歯よりも悪い状況になることがあります」
Q.歯の健康上、無糖の炭酸水は1日にどの程度までなら摂取しても問題ないのでしょうか。摂取量に関する目安がございましたら、教えてください。
石川さん「唾液の質や量、歯の質、炭酸水の摂取頻度や飲み方にもよるため、残念ながら問題ないと言い切れる明確な量はありません。ただ、酸性食品をダラダラと摂取する頻度が高いと、唾液による緩衝能力が効かなくなるため、量よりも頻度の方が重要だと考えられます。
また、運動中や夜間など、唾液量が減るタイミングは、酸蝕症のリスクが高くなるため、気を付けましょう」
Q.無糖の炭酸水を飲んだ後は歯を磨いた方がよいのでしょうか。摂取後の適切な対処法について、教えてください。
石川さん「無糖の炭酸水を飲んだ後は虫歯のリスクは少ないですが、酸蝕症のリスクが上がります。口の中、特に歯が酸にさらされた状態ですぐに歯磨きをすると、エナメル質の下にある象牙質に対して、酸の浸透が強くなるという報告もあります。歯がすり減って象牙質が見えている人は注意が必要だと考えられます。
また、歯ブラシ自体は虫歯原因菌や歯周病原菌への栄養遮断のために使われる物で、無糖の炭酸水を飲んだ後に歯を磨くメリットはあまりないといえます。
いかにpHを早く中性に戻すかが勝負になるため、摂取した後は水で軽く口をゆすぐのがよいでしょう。その際、アルカリイオン水などを使用するのが有効という報告もあります。また、無糖のガムをかむと唾液量が増え、pHの緩衝が早くなるという報告もあるため、有効だと考えられます」
(オトナンサー編集部)