「近畿大学水産研究所」。これは、大阪最後の一等地と呼ばれるJR大阪駅北側の再開発地区「うめきた」(大阪市北区)に4月にオープンする養殖魚の専門料理店名だ。
およそ飲食店に似つかわしくないネーミングは、この研究所が世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロを提供することに由来する。サントリーホールディングスと共同で、国内の大学で初の直営店事業に乗り出す。「海のダイヤ」とも呼ばれる希少なクロマグロをリーズナブルな価格で味わえる-と、オープン前から熱い注目を集めている。
「海を耕せ!」。初代総長の世耕弘一氏は戦後の食糧難の時代、こう号令をかけた。敗戦により国土も海も狭められた状況では、日本人の食料を確保するためには陸上での農産物の増産だけでは不十分として、海産物を生産しなければ日本の未来はない-との思いからだという。
この考えに基づき1948年に和歌山県に設立されたのが同研究所だ。当初は、前例のない試みに失敗の連続だった。大学の財政を圧迫したことから一時は研究の撤退を提案された。それでも困難を乗り越え、ハマチやマダイの養殖に成功。2002年にはクロマグロの完全養殖を成し遂げ、知名度を一気に上げた。
養殖マグロは「近大マグロ」の商標で大学発ベンチャー企業から販売され、今や年間約28億円の売上高を誇るまで成長した。関係者は「生物学的には研究は誕生させ、生育したら完成。ただ消費者の口に入る養殖魚は、おいしいと言ってもらえるレベルまで試行錯誤は続いた」と打ち明ける。
一昨年の元日には「世界がそうくるなら、近大は完全養殖でいく」と刺激的なキャッチコピーで新聞に全面広告を出した。乱獲などで個体数が激減する天然クロマグロは漁獲制限が世界で議論の的になっている。この世界的な水産資源問題を、完全養殖マグロが解決する可能性を秘めることをアピールしたのである。
また、町工場が集積する大阪府東大阪市に本部キャンパスを置くことから、地元企業の製品づくりに使われる金型を研究する「金型プロジェクト」にも取り組む。3D(立体)形状計測・検査システムを使って金型や、金型でつくった製品の正確な計測、解析を進めており、職人の後継者不足に悩むモノづくり中小企業の技術をデータベースで伝承していくのが目的だ。
「ノーベル賞を目指すような研究は東大、京大などに任せるが、社会に役立つ実学には率先して取り組む」(関係者)。研究や教育の成果を社会で生かし、しかも利益を生むことを重視する「実学教育」に特化する近畿大学の姿は、18歳人口の減少が続き、淘汰(とうた)の時代を迎えた日本の大学のあり方に一石を投じている。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130306/edc13030610590003-n1.htm
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