難病の患者を支え、治療法の研究開発を後押しする国の難病対策が、大きな転換期を迎えています。医療費の公費助成が受けられる病気を増やすのをはじめ、制度の大幅な見直しが具体化しつつあるのです。
――「難病」とは、どういう病気のことをいうのですか。
「医学的に明確な定義はありませんが、治療が難しい病気の呼び名として、一般的に使われてきた言葉が『難病』です。国が統一的な難病対策に乗り出した1972年、難病対策要綱が定められました。そこでの定義は、
〈1〉原因不明で治療法が確立されておらず、後遺症の恐れが少なくない
〈2〉慢性的で家族の介護や経済的負担、精神的な負担が大きい
――といった内容です」
――国の難病対策は、どのようなものなのですか。
「日本の難病対策は71年、整腸剤・キノホルムの薬害であるスモンの患者支援をきっかけに始まりました。その後、対象となる病気を徐々に増やしながら、医療費助成、研究費の助成、医療施設の整備、福祉の充実などを目指す対策が行われるようになってきたのです。現在、研究費の助成は130の病気が対象で、このうち56の病気は医療費助成の対象にもなっています」
――なぜ見直しが必要になったのでしょうか。
「時代とともに様々な課題が明らかになり、今のままでは実情にそぐわないことがわかってきたからです。助成対象でない病気との公平性や財政難が、見直し論議の大きな要因になりました。さらには、医療の進歩で、難病を抱えながら長く療養生活を送る人が増えたことや、病気であっても仕事を続ける患者の社会生活を支援すべきだという考え方が広がってきたことも背景にあります。社会、経済情勢の変化や患者とその家族のニーズの多様化に合わせた支援体制づくりが求められているのです」
――見直しの内容は、どういったものですか。
「現在、厚生労働省の審議会(厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会)が具体的な内容を検討中ですが、医療費助成の対象が300を超える病気に拡大され、それぞれ重症度に応じて対象患者が認定される見込みになりました。対象になる病気は、新しい基準に当てはまることが条件です。新基準は、患者数が人口の0・1%程度(約12万人)以下で、診断基準があることなど、5項目の条件を満たす必要があります。これまで厚労省が、研究費と医療費の助成をしたことのある482の病気のうち、新基準に照らし合わせて分類すると、300超の病気が対象範囲に入るとみられています」
――ほかにはどのような見直しがありますか。
「医療費助成の水準を見直し、これまで自己負担ゼロだった重症患者も含め、すべての対象患者に、所得に応じた自己負担を求める方針が決まりました。入院した時の食事代や院外調剤の薬代も患者の自己負担になりそうです。これは、障害者や高齢者を対象にした他の支援制度とつり合いがとれるようにし、広く国民の理解を得られる制度にするための対応のようです。ほかにも、難病患者や家族への福祉サービスや就労支援の充実、治療法開発のための研究促進のあり方が検討されています」
――今後の見通しは。
「厚労省の難病対策委員会は来年1月に最終報告案をまとめる予定で、それを基に、来年度以降、対策が具体化されることになります。対策のための予算を安定的に確保するには根拠となる法律があったほうがよいとの考えから、難病対策の法制化も目指しています。ただ、難病は5000~7000種類あるといわれ、今回の見直しでも対象から外れる病気があり、これですべての課題が解決するわけではありません。今後も必要に応じ、改善が求められていくことになりそうです」
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