札幌の地酒といえば「千歳鶴」。創業は明治5年。現在では札幌市で唯一の酒蔵でもある。
大都市の中心部で酒造りを続けてこられたのはなぜか。千歳鶴の日本清酒の杜氏(とうじ)であり、同社社長の佐藤和幸さん(61)は「何よりも水がいいから」と言い切る。
「地下水のおかげです。ミネラルが豊富な水です。今くみ上げているのは、江戸か明治時代の水でしょう」
日本清酒がある場所はかつて、酒蔵が集中した所でもあった。ふだんはあまり意識しないが、札幌は水が豊かな土地ということを実感させられる。
酒造りには山田錦という米が多く使われる。しかし「千歳鶴」の日本清酒は、北海道の酒米を使った酒造りにこだわってきた。先代の杜氏が酒米を道産の「吟風」に決め、今でも使い続けている。
「有名な酒米は米に力がある。あえて違う酒米を使うことで、苦労もしてきたが、そうしないと技術の発達はない」と話す。とことんこだわっているのだ。
酒造りは伝統産業でもある。「伝えられた通りに作ればいいが、10年前の酒と今の酒は違う。分からないように変えている」と話す。だが、こうした取り組みに自信を持っているというわけではない。
「作っている最中、お客さんがどう反応するか考えると恐ろしくなるときがある。10人全員を振り向かせることはできない。以前は10人中5人を振り向かせようとした。今は10人中1人を振り向かせるのはどうするかを考え、ぶれないように作るようにしている」
先代杜氏の教えは「見て覚えろ」だった。「同期は4、5人いたが、私が一番もたないだろうといわれていた。わかんないですよね。入社したときには、徹底して掃除をたたき込まれた。机に座っていられると思うなと。まずは掃除だと教え込まれた」
佐藤さんは大学卒業後、和菓子職人になりたかった。
「手作業が好きで、どういう巡り合わせなのか縁があって酒造りの世界へ」と笑う。
酒造りをしていない時期も朝は早く、7時には会社に来ている。すでに社員も仕事に取りかかっている。
「何をするわけでもないけど。30年の生活が染みこんでいるのかな」
今年も10月から酒造りが始まった。造っているときには「お客さんの顔が浮かぶ。緊迫感がある」と話す。杜氏としてしばらく休みはなくなる。
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