手紙文化が廃れてしますのか…小学生の半数「ハガキの表書き分からない」
インターネットが普及し、年始のあいさつもメールで「あけおめ」「ことよろ」で済ませる人が多くなった今、案の定というか、手紙やはがきを書けない若者が急増している。昨年、広島県教委が小学5年生を対象に行った基礎学力調査では、はがきなどの表書きを正しく理解している児童が半数にとどまるという衝撃的な結果も。このままでは「手紙文化」が廃れると危機感を持った関係者らは、手紙の良さを知ってもらおうと、あれこれ手を尽くしている。(安田奈緒美)
■書く位置がアベコベ…
広島県教委は昨年6月、県内の公立小516校の5年生約2万5千人を対象に調査を実施。基礎学力や学習状況の実態を探るのが目的で、国語の「書く力」を確認する設問の中に、はがきのどこに自分と相手の名前や住所を書くかを問う選択方式の問題があった。
結果は、正答率がわずか52・5%で、誤回答が46・1%。無回答の1・4%を加えると、半数近い児童が正しく理解していないという県教委にとってはショッキングな数字だった。
誤回答で目立ったのは、自分の住所と名前の位置が逆になっていた児童が8・5%、自分も相手も住所と名前を書く位置が逆だった児童が7・2%など、「先に名前を書いて後に住所」という回答。相手の住所・名前を書くべき位置に自分のを書くと思っている児童も0・8%いた。
普段手紙やはがきを書いていないから、表書きの書き方もわからない-。危機感を抱いた県教委は「実際に手紙やはがきを書く活動をいろいろな場面で設け、継続した指導を行うことが大切」「年賀状や暑中見舞いなど日常生活での機会をとらえて指導することも効果的」と各校に要請した。
こうした傾向は広島県にとどまらない。平成21年に文部科学省が全国の小学6年生を対象に行った学力・学習状況調査では、手紙やはがきの表書きについて尋ねる広島県教委と同様の設問で、正答率が67・1%という結果が出た。
この調査をきっかけに、日本郵便は小学生を対象にした「手紙の書き方体験授業」を22年度から始めた。手紙の文例や正しいあて名の書き方などを解説した教材を作り、希望する小学校に無償で配布。教材で学んだ後、実際に家族や友人にはがきを書き、下校時にポストに入れるという体験授業を行っている。参加校は22年度に5477校だったのが24年度には7147校に。同年度からは中学生も対象に広げている。
日本郵便・切手・葉書室の山下健一郎さん(56)は「手紙をやりとりする中で生まれる楽しさやうれしさなど感性を育んでほしい」と話す。
■手紙はハート 大人にも「見直し」の動き
手紙の良さを見直そうという動きは、大人向けにも広がっている。
先月、神戸市中央区の市勤労会館で開かれた「心を届ける手紙のセミナー」。主宰者の村山順子さん(65)は「手紙は難しいものじゃない。形式にこだわらずに書けばいい」「返事を期待しない。返事が来たらラッキーぐらいの気持ちで」と“極意”を語った。
セミナーの席で、受講生たちは両親や幼なじみに手紙を書き始め、「10年以上、手紙なんて書いていない」「書き出しが難しいなあ」と言いながら30分かけて完成。富山県に住む母親に手紙を書いた兵庫県太子町の主婦、朝田真紀さん(38)は「手紙はハートが大事だと言われて素直な思いを書けた」と話した。
村山さんが深く手紙に関わるようになったきっかけは、8年に急死した夫がその1カ月前に誕生祝いにくれた手紙。「いつもいきいきしている順子さんを見るのは心嬉しいものです」と書かれていた。
夫を亡くして以来、ふさぎ込みがちだった村山さんは、手紙を読み返し「今の私はいきいきしているだろうか」と考えるように。地域貢献活動として16年に手紙のセミナーを始めた。6月で71回を迎え参加者は延べ千人を超えた。「書くことは自分の気持ちを確認するきっかけにもなる。自分を見つめ直すこともできるのです」
百貨店では手紙にまつわる雑貨の売り上げが伸びている。阪急百貨店梅田本店では昨年秋のリニューアルオープンに合わせて世界の万年筆、ボールペンをそろえた筆記用具売り場「ペンラボラトリー」を新設、現在、当初予想の2倍近い売り上げとなっている。
また、同フロアには2000種類以上のカードと500種類以上の便箋セットをそろえた「文具雑貨マルシェ」のコーナーも。「手書きの良さが再認識されているようで、小学生から大人まで幅広い世代に興味を持ってもらっている」(同店)という。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130630540.html