出産後の女性の10人に1人が経験するといわれる「産後うつ」。多くの人にリスクがあるにもかかわらず、出産前の情報がほとんどなく、いざ直面した時には本人も周囲も戸惑ってサポートが得にくいという。どんな支援が求められるのだろうか。
産後うつに詳しい宗田聡・広尾レディース院長によると、産後うつは主に出産後1~6カ月の間に発症し、強いうつ症状が出る。出産直後、ホルモンバランスの変化から一時的に気分が落ち込むマタニティーブルーとは異なり、適切な治療が必要だ。原因は分かっていないが、子どもの誕生による環境の激変▽自分1人での育児▽職場復帰への焦り――などのストレスも要因となり得る。日本では、出産した女性の12~13%がかかるというが、出産前に情報を得る機会はまだ少ない。
7月、産後うつの実態を明るく描いた4コマ漫画「うつまま日記。」(NPO法人・地域精神保健福祉機構コンボ制作)が出版された。原作者のまつもとあけみさんの体験を漫画化したもので、長男を出産後にうつ病になった主人公が苦しみながらも家事と育児に奮闘する姿を描き、読者から「同じ『うつまま』として共感し、励まされた」などの声が多く寄せられている。
主人公はうつ病のため、なかなか布団から出られない。夫の理解不足や、治療を受けながらの第2子妊娠、「僕がいなければ母さんは楽でしょう」と泣く長男――。「うつまま」が直面する深刻な問題をユーモアを交えて描き、家族のさりげない思いやりに心温まる場面がちりばめられている。まつもとさんは「うつ病でしんどい思いをしながら育児をする母親の現状を伝えたかった。うつままにとって、夫の理解はとても大切。うつの妻を持つ夫にもぜひ読んでほしい」と話す。
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NPO法人・ファザーリング・ジャパンの「産後うつプロジェクト」チーフで、夫向けのフォーラムなどを開催してきた棒田明子さんによると、「出産前に妊婦を不安にさせる話はできない」などの理由から、産後うつに関する情報は産婦人科や自治体の両親教室などで触れられることが少ないのが実情だ。
出産1カ月後の産じょく健診以降は母親に対する医学的ケアはない。産後1カ月ほどで里帰り出産から自宅に戻る人が多いが、その頃になると夫は再び仕事中心の生活になり、核家族の場合は母親が孤立しがちだ。
産後うつへの知識不足から、家事や育児ができない妻に対し、「怠けている」「子ども嫌い」などと責めてしまう夫も多いという。
棒田さんは「産後うつの症状は産後2カ月以降に重くなるので、夫のサポートは3カ月は必要。会社側も3カ月間、残業させないなどの体制作りをしてほしい」と話す。
ただし、夫は妻の負担を減らそうと掃除や洗濯を一生懸命頑張るが、妻が本当に望んでいることとかみ合っていないことも少なくない。「家事や育児は代行やベビーシッターの助けを借りることもできる。公園を一緒に散歩したり、手をつないで寝たり、といった『こんな状況でもつながってくれる人がいる』というメッセージを伝えることが大切」
一方で、産後2~3カ月たっても妻の病状が改善せず、会社に言い出せないまま1人で抱え込み、夫までうつになってしまうケースもあるという。「共倒れしないために、夫がすべてを抱え込まないよう、サポーターが必要だ」と棒田さんは話す。
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◇精神疾患抱える3女性が作った、うつまま日記。
「うつまま日記。」の原作者、漫画家、編集者は、3人とも精神疾患を抱えた女性だ。原作者のまつもとさんと編集者の小林絵理子さんはうつ病、漫画家の佑実さんは統合失調症を患っている。
関西に住むまつもとさんは数年前から日記風のイラストをコンボへ定期的に送り続け、段ボールいっぱいになった。内容が面白かったため、コンボの丹羽大輔さんが知り合いで編集者経験がある小林さんと、コンボに漫画を投稿してきたことがあった佑実さんに声をかけ、3人で漫画を作ることが決まった。
それぞれの体調に合わせて作業を進め、3年かけて本が完成。「精神疾患がある3人で漫画を作ったのは、きっと歴史上初。21世紀の奇書です」と小林さん。まつもとさんも「互いのしんどさを理解しながら、3本の矢がそろえば折れずにちゃんと仕事ができることが分かった」と話す。
A5判112ページ、1260円。書店販売はしておらず、購入希望者は電話(047・320・3870)かファクス(047・320・3871)でコンボへ申し込みを。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20121023ddm013100028000c.html