◇からかい、いじめ超え 夢へ
生まれつき頬やあごの骨が不完全な「トリーチャー・コリンズ症候群」と呼ばれる疾患を持つ人たちがいる。首から下は普通と変わらないが、顔に特徴があるため、いじめの対象になることもある。彼ら「見た目」問題と向き合う人たちの姿を活写した写真展が東京都港区の公益財団法人「人権教育啓発推進センター」で27日まで開催中。トリーチャーを抱えながら生きる2人の若者が、毎日新聞の取材に思いを語った。
神奈川県在住の渡辺浩行さん(22)は帝京大文学部の4年生。生まれつき唇や歯茎が裂け、頬の骨が欠損していた。出生直後に唇と歯茎を治して以降、肋骨(ろっこつ)や骨盤の一部を頬に移す手術を繰り返した。
小学校の頃、サッカーの試合で相手選手から「変な顔」とからかわれ、言い返すこともできず「生まれつきだから仕方がない」と自分に言い聞かせたこともある。電車の席に座っても、向かい側の視線を感じずにはいられない。「見た目がすべて」「きれいじゃなきゃダメ」。無神経な美容の文句をばらまく広告に疑問を感じる。大学では初等教育学を専攻し、小中学校か特別支援学校の教師を目指している。先月、母校で教育実習を行った。「子供が秘めている価値を見抜くことは人に負けていない」と自信を深めた。
埼玉県在住の豊田陽平さん(22)は早稲田大人間科学部の4年生。生まれつき無かった耳を肋骨の軟骨から形成したり、あごの骨を割り、隙間(すきま)を作ることで自然形成を促したり、覚えているだけで計20回の手術を受けてきた。
小中学校では目尻が下がった容姿を「目が豆みたい」とからかわれ、仲間はずれにされたこともあった。米国にいた経験から「多文化・多民族でない日本では『違う』ことを受け入れにくい社会性があるのではないか」と感じる。「ただ、普通に接してくれたらそれでいいのに」
現在は、健康福祉科学科に所属し、社会福祉士の国家試験に向けた勉強中。「自治体の職員になり、地域の福祉をよくする仕事に携わりたい」と語る。
2人は「見た目問題」を抱えた当事者や支援者でつくるNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」(MFMS、東京都墨田区)のメンバー。MFMSは21日午後1時、写真展の会場で、メンバーによるパネルディスカッションを催す。外川浩子代表は「見た目問題にぶつかっていても、いろいろな生き方をしている当事者のことを知ってほしい」と話す。問い合わせはMFMS(03・6658・5580)。
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■ことば
◇トリーチャー・コリンズ症候群
生まれつき頬や耳などの形成が不完全な遺伝性の疾患。19世紀末、最初に研究に携わったとされるイギリス人外科医の名から付けられた。数万人に1人の割合で発生するとされるが、日本では公費補助を受けられる難病の指定も受けておらず、専門医も少ない。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120720dde041040006000c.html