ドラマ「半沢直樹」が大ブレークした。
大手銀行に勤める半沢直樹。
「部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のもの」。企業の中にあるそんな不条理に、半沢直樹は黙っていない。
「やられたら、倍返し」。自分を苦しめた者、自分の大切な人を追い詰めたやつに倍の仕返しをする。もちろん、単なる私怨ではない。筋は通っている。「倍返し」は、今年の流行語になりそうだ。
半沢直樹に人々が喝采するのは、それが1つの「ファンタジー」だからだろう。実際には、会社の中のさまざまな不条理に「仕方がない」と我慢をしている人のほうが多い。
「やられたら、倍返し」は、爽快なスローガンだが、現実にはなかなかできない。だから、半沢直樹が筋を通しつつ復讐するときに、人々は喝采する。ドラマというフィクションの世界で、現実の代償を得るのである。
「半沢直樹」の大ヒットを見ていると、日本人は変わっていないのだなと感じる。「倍返し」でスカッと爽快になるという構造は、かつての人気ドラマ「水戸黄門」と通じている。最後にカタルシスが得られるまでの「抑圧」の構造が、よく似ているのである。
「水戸黄門」では、黄門様のご身分という錦の御旗があり、印籠を示した瞬間、悪代官らが恐れ入る。一方の半沢直樹には、そのような「身分」はないけれども、知恵と度胸で調査し、証拠を集め、相手を追い詰める。どちらも「悪いやつら」による抑圧が、感情の重要な伏線になっている。
半沢直樹に多くの日本人が共感するということは、それだけみんな我慢しているということだと思う。会社勤めの中で、筋を通したり、正義を貫くというよりは、上司の不条理な命令や、同僚とのしがらみの中で自分を抑えていることが多い。そんな等身大の日本人像が、半沢直樹から見えてくる。
ところで、「我慢のしすぎ」は、脳によくないことはご存じだろうか。まず何よりも、ストレスが溜まる。ストレスが溜まると、ホルモンの分泌などを通して体の調子を整える脳の回路が不調になり、健康に悪影響が及ぶ。
さらに見逃せないのが、脳のパフォーマンスの低下である。脳の働きが最高になるのは、集中しているがリラックスしている「フロー」の状態。アスリートが世界新記録を出すのは、フロー状態のとき。ビジネスパーソンが、「自分新記録」とでも言うべき高度な動きをするのも、フロー状態においてである。
フローに入るためには、ある程度自分を「追い込む」必要がある。ところが、ストレスが溜まっていると、この「追い込み」ができない。いろいろと余計な事を考えてしまって、集中とリラックスのフローを実現できないのだ。
日本中の企業で、半沢直樹の活躍に喝采する「我慢する社員」が多いということは、それだけ、仕事でフローに入れない人が多いということを意味する。つまり、日本経済の生産性は低下している。我慢のストレスは、脳がフローに入ることを邪魔するのだ。
できることならば、現実においても、あまり我慢しないで、時には「ちゃぶ台返し」をしたほうがよい。そのほうが、生産性が上がって、本人も会社もハッピーだ。
それがすぐには無理だというのならば、ドラマ「半沢直樹」の「倍返し」で、ストレスからの解放の疑似体験をするのもいいだろう。フィクションは、現実の1つのシミュレーション。ものの見方を変えることで、生きる空気が少しだけ自由になる。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131105-00011100-president-bus_all