【話の肖像画】国立長寿医療研究センター部長・高島明彦氏(58)
アルツハイマー病は、100歳まで生きれば誰でもかかる病気。ただ、長く生きても発症しない人がいます。脳の神経細胞は間違いなく変化しているのに、社会生活には支障がない。規則正しい生活、生きがい、社会との接点を持っている。それが一番なんだと思いますね。
〈認知症のうち最大の疾患であるアルツハイマー病。近著『アルツハイマー病は今すぐ予防しなさい』(産経新聞出版)で、この病気の仕組みを科学的な知見とともに紹介している〉
年をとると、物忘れが激しくなる。これは加齢によって記憶をうまく引き出すことができなくなるということなんですが、アルツハイマー病の記憶障害は数分前から数時間前の出来事を思い出せなくなります。例えば「朝食に何を食べたか」ではなく、「朝食を食べたこと」そのものを忘れてしまう。それは脳の記憶をつかさどる海馬(かいば)という器官の神経細胞が壊れることによって起きます。
僕の本は「難しい」といわれます。でも、どうしてそうなってしまうのかを「知りたい」という気持ちがほしい。その上で調べていただくということです。「青魚を食べるといい」とか「適度な運動が必要」というけれど、なぜそれらが必要なのかを納得したうえでやるのと、よく知らないでやるのでは違うと思います。
日本では、外来を担当する医師が1日で50人から100人を診察している。それで一人一人に丁寧に説明するのは難しいという事情もある。そのせいか、お医者さんにもらった薬をそのまま飲んでいるという人が、特に高齢者ではどうしても多い。何の薬かはちゃんと説明されているんだけれど…。例えば血圧の薬なら、どこをコントロールして血圧を抑えているのか、もう少し一般の人がきちんと理解していてもよいのではないかと思いますね。
自分の体や脳のことを興味をもって調べる。それによって、脳も活性化する。ただ、年を重ねるといろんなことが面倒になるというのも事実ですけれど。
〈自身の母も10年以上認知症で、介護施設に入所している〉
母は86歳ですが、もうほとんど言葉がわかりません。でも4月の終わりに会いに行ったら、ニコニコして「帰ってきたの」って。あれは確かに言葉だった。その前に行ったときは僕のことも分からないみたいだったのに…。少しずつ神経が変化しながらも、何かでつながるときもあるんだね。
認知症の症状が出てきても、「怖い」「認めたくない」という思いが先に立って、多くの人は受診を嫌がります。母には「健康診断に行こう」と言って連れて行ったけれど、それでも大変でした。しかも医師から「アルツハイマー病です」と宣告されて、母は怒った。「私は違う」と。
施設に預けましたが、家族は辛(つら)い。「見捨てたんじゃないか」と思ってしまう。だから、仕組みが知りたいと思う。「大切な家族のどこがどうなって、こうなってしまったのか」とね。(聞き手 戸谷真美)
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130608506.html