生活習慣病の予防、早期発見をめざす厚生労働省の特定健診・保健指導は、スタートから5年を経て2期目に入った。40歳から74歳までの国民約5千万人を対象にするという世界でも例のない壮大な試みだけに、受診率の向上は困難だが、ベースになる課題である。多くの人が受診すればするほど、健康寿命の延長など医学的な成果や、膨大な医療費の削減に結びつくからだ。年々高まっているとはいえいまだ目標とは開きがある。
◆コンビニで受診
ここに来て視点を広げ、柔軟に工夫して取り組む自治体などが出ている。
兵庫県尼崎市は10月から、コンビニエンスストア大手のローソンと協定し、全国初のコンビニ健診を始めた。店舗の駐車場に検診車を入れ、血液検査などの測定や医師の診察を行う。健診日は土日のいずれか1日に設定し、市の国民健康保険加入者で特定健診の該当者や22歳以下の市民らは無料で受けられるなど料金体系を工夫した。さらに、がん検診にも幅を広げて肺がんのエックス線検査などを有料で実施している。
日常の買い物の場であるコンビニは受診を控えていた人にとって医療機関より気軽に行け、健診開催の情報が伝わりやすい。店側にとっても健診の受け付けなどの業務が増えるものの健康イメージの定着にもつながるとあって、市内6店舗が協力することになった。
野口緑・市ヘルスアップ戦略担当課長は「開始したばかりですが、ベビーカーを押した主婦が受診するなど、これまで関心が低かった若年層の割合が高い。今後健診の方法など改善を重ね、市内全域に広げていきたい」と話す。
官民の連携が順調に進めば、特定健診の枠を超えた健康に対する意識が育まれることにもなりそうだ。
◆ニーズがある項目
従来の健診に関心が高い検査項目を加えるなどして受診者を急増させたのが、全国健康保険協会(協会けんぽ)滋賀支部の例だ。同協会は健保組合がない中小企業の従業員と家族が加入している。これまで事業所ごとに受診券をまとめて配布していたため、家族にまで伝わらないことが多かった。
このため、各個人宛てに郵送したうえ、健診の項目に「骨密度」と「肌年齢」の2つを加えたところ、平成23年度の受診率が11・5%だったのが翌年度には18・7%にはねあがった。
同支部では「女性の加入率が高く、骨粗鬆(こつそしょう)症など高齢化に伴う病気に関心が寄せられたのでしょう」と分析する。個人宛ての郵送は来年度から、全国的に行われる予定で、項目の追加により潜在的なニーズを掘り起こしたことにもなる。
◆医療モデルの構築を
厚生労働省の国民生活基礎調査(平成22年)によると、健診などを受けなかった主な理由として「時間が取れない」「必要な時はいつでも受診できる」「面倒」が挙がっている。特定健診の未受診の理由について、別の研究班の調査では「すでに医師に受診」「健康だから」などが多かった。全体的に、特定健診が必要という意識が薄い傾向が見られる。
基本的には、未病の段階から生活改善の手を打つという特定健診の予防医学の考え方がもう少し浸透すれば、このような理由による未受診は減るだろう。根幹にあるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念は、血糖や血圧が平常値より高めで投薬するほどでない状態でも、こうした危険因子が重なることで徐々に進行し、心筋梗塞などさまざまな生活習慣病が発症するということだ。だから、逆に言うと健診により、気づくのが早ければ早いほどメタボからの脱出の成功率が高まることになり、自分の健康に対する利益は大きい。
しかし、意識のうえで理解していても、はっきりした自覚症状がない状態では、なかなか実行には結びつかない。
厚労省は特定健診2期目の受診率の目標について前回に引き続き、全体で70%に据え置いた。そして受診者に継続を促すと効果が大きいことや、受診が少ない被扶養者への呼びかけの徹底、すでに医療機関で受診した人のデータの活用で重複を避けるなど検討課題を挙げる。
その中で、コンビニ健診などは受診のきっかけを作り、新たな展開のヒントになる。海外でも注目されている健診だけに、医療モデルとして輸出できるような形を作りあげてほしい。(さかぐち よしのり)
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