今年7月ごろから、インターネット上を騒然とさせている“やけど虫”と呼ばれる昆虫をご存じですか?ツイッターを中心に「やけど虫にやられて、ただれてます」「首の半分がただれて超痛かった!」といった被害の声が続々と書き込まれています。
そこで今回は、この謎に包まれた虫の生態を緊急取材しました。どんな形をしているの?生息している場所は?どうすれば被害に遭わないの?などについてお伝えしました。
■やけど虫とは?
今、ちまたで“やけど虫”と呼ばれているのは、「アオバアリガタハネカクシ」という体長7ミリほどの昆虫です。全国に生息し、夏に多く発生。黒とオレンジの体色が特徴的です。体液に有毒成分が含まれるため、潰すなどして体液が皮膚につくと、ヒリヒリとした痛みとミミズ腫れを生じ、次第にうみがたまってきます。炎症は10日から2週間ほどで徐々に鎮まり、通常は1か月程度で完治します。
アオバアリガタハネカクシは、草花につく小さな昆虫(アブラムシなど)を食べて生活しています。そのため、草が生い茂った河川敷や田畑、都会でも、公園の草花が繁茂したところや家庭菜園の畑などには生息しています(芝生など草を短く刈ったところにはほぼいません)。昼間は地面をはって移動しますが、小さな羽根を持っているため、夜は明かりを求めて数十メートル飛ぶことがあります。自動販売機や街灯などの明るい場所に集まったり、窓明かりに引き寄せられて家の中へ入ってきたりすることもあるそうです。
■やけど虫が体に止まったら?
“やけど虫”という名前だけ聞くと、凶暴な虫を想像してしまいがちですが、アオバアリガタハネカクシは、決して人を刺したりかんだり、攻撃してくることはありません。性格も臆病です。なので、やけど虫が体に止まったら、動転して潰したり、手で無理に払いのけたりしないことが最も大切です。鹿児島大学農学部の津田勝男教授によれば、「人の体に止まったとき、やけど虫はパニック状態で、どうにか逃げようと素早く動き回る。ですから人間の方は落ち着いて対応し、息でフーッと吹き飛ばすか、腕を大きく振って振り落とすなどして、虫が逃げるのを手助けしてあげるのが良い」と話してくれました。
また、二の腕や首に止まったやけど虫は、自分の身を隠そうとして、そでやえり元から服の中に入ってこようとします。その場合も落ち着いて、上着をズボンやスカートから出して、パタパタと繰り返しそでや服を揺らせば、自然に出て行ってくれるということでした。
■“やけど虫”を潰してしまったら?
では、もしうっかり潰してしまったら、どうすればいいのでしょうか?兵庫医科大学の夏秋優医師に伺いました。ポイントは2つ。
●なるべく早く、石けんをつけて優しく洗い流す。水だけだと、皮脂よごれと一緒に残ってしまう可能性がある。
●虫刺されの薬ではなく、「湿疹・かぶれ用の塗り薬」を付けること。虫刺され薬に含まれるメンソール成分が患部を刺激するため。様子を見て、患部がただれたり、うんだりしてきたら「化のう止め用の傷薬」に切り替える。
■“やけど虫”という俗称について
新聞・雑誌やインターネットで“やけど虫”を調べると、多くの場合、今回取材した「アオバアリガタハネカクシのことを指す」と記載されてます。ところが、実は元来“やけど虫”と呼ばれていたのは、「アオカミキリモドキ」という別の虫です。2つの虫は、体液に有毒成分を含んでいること、それが皮膚に付着するとやけどしたような炎症を起こすこと、光に向かって飛ぶ習性があることなど、共通点が多くあり、そのため今ではどちらも“やけど虫”と呼ばれることになったと考えられます。アオカミキリモドキの対処法は、上記の「アオバアリガタハネカクシの対処法」とほぼ同様です。「潰さず、触らず、お引き取り願う」ことがポイントです。
▼スタジオでアオバアリガタハネカクシを潰したときの対処法を教えてくれた人
夏秋優(兵庫医科大学皮膚科 医師)
著書:「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」(学研メディカル秀潤社)
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NHK「あさイチ」2013年7月30日放送分