舌でつぶせる硬さのエビフライや空揚げ、漬物…。摂食・嚥下(えんげ)機能が低下した高齢者らの介護食として、通常の料理の形状で見た目もおいしく食べやすい「ソフト食」が広がっている。どろどろ状態の「ミキサー食」の見た目の悪さ、「刻み食」に潜む誤嚥の危険性といった課題を調理の工夫で改善。食欲がわき、栄養がしっかり取れると好評だ。(横山由紀子)
◆おいしそうに完食
大阪府枚方市の住宅型有料老人ホーム「グッドタイムリビング香里ケ丘」に入居する中村昌子さん(86)は要介護度5の認定を受け、嚥下機能の低下で普通食が食べられない。
しかし、昼食のメーンは、塊の牛肉やブロッコリー、ジャガイモが並ぶ「牛肉のオイスターソース焼き」。これがソフト食。本来の形状を保ち、普通食に見えるが、軟らかな介護食だ。中村さんはヘルパーに介助してもらい、おいしそうに完食。これまで、ミキサー食は好き嫌いが激しく少量しか受け付けなかったが、3年前にソフト食に切り替えたところ、「おいしい」と食事量が増え、栄養もしっかり取れるようになった。
同ホームが導入しているソフト食は、イーエヌ大塚製薬(岩手県花巻市)が製造販売する「摂食回復支援食あいーと」。繊維を分解する酵素を肉や野菜に浸透させて圧力をかけ、スプーンや舌ですっとつぶせる軟らかさにする方法で、エビチリや肉じゃがなど豊富なメニューを高齢者施設や家庭に提供している。
同ホームでは、摂食・嚥下障害のある入居者に食事を楽しんでもらおうと、3年前から希望者に提供し、好評。施設長の向井正樹さんは「見栄えも良く、おいしいソフト食は介護現場での最先端の食事だと思います」と話す。
◆楽しみ・生きがい
「ソフト食」の概念は平成7年、管理栄養士で潤和リハビリテーション診療研究所(宮崎市)主任研究員、黒田留美子さんが、介護老人保健施設などに勤務した経験から「高齢者ソフト食」として考案したのが始まりとされる。
安全に食べるには刻んでバラバラよりも、嚥下しやすい、ある程度のまとまりのある形状が必要。エビの場合は、卵白とかたくり粉を混ぜてペースト状にして蒸し、衣を付けて揚げることで柔らかなエビフライに。鶏肉や豚肉は繊維を細かく挽(ひ)いて空揚げやトンカツにと、見た目は普通食と同じだが、口の中でつぶせて飲み込みやすいのが特徴だ。
黒田さんは「高齢者ソフト食標準テキスト」(リベルタス・クレオ)などの著書や講演会などを通じて活動している。
ソフト食はさまざまな食品メーカーが製造し、高齢者施設や病院などで導入が進んでいる。フジッコ(神戸市中央区)は、ソフト食としての「赤しば漬」「つぼ漬」を販売。林兼産業(山口県下関市)はソフト食の調理素材として活用できる肉や魚を特殊加工した「ソフミート」を提供、人気だという。
黒田さんは「高齢で普段の生活ができなくなっても、食事は豊かで味わい深いものであってほしい。見た目も味もおいしく安全な食事は高齢者の楽しみ、生きがいにもつながる」と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/education/snk20130626504.html