涼しくなってほっと一息。なのに、どうにもやる気がおきない。どれだけ寝ても眠くて仕方がない。秋のせいか、食欲が止まらない。「ここ数年そうだったし、夏の疲れが出たのかな」と軽く思っていないか。それはひょっとして、「季節性うつ病」かもしれない。
■日照時間減少で
夏は非常に元気だが、冬が近づくにつれ、うつ状態になる。これが「季節性うつ病」だ
性別や年齢に関係なく発症し、9月頃から症状が現れる。冬に欠勤が多いということもある。春になると、再び元気になり、病気のそぶりが全く見えなくなるため、気づかないまま年数を重ねることもある。
原因は太陽光の減少だ。冬になり、日照時間が少なくなると脳のなかのメラトニンという物質が十分、分泌されなくなり、体のリズムが崩れる。北欧では研究が進んでおり、国内では、北海道や北陸など、雪国を中心に患者が多いといわれている。
赤坂クリニック(東京都千代田区)の理事長、貝谷久宣医師が解説する。
「秋になるとなんとなく物悲しい気分になるが、この場合は頭が冴えてくる。季節性うつ病の場合、とにかくおっくうで頭が働かず体が動かない。会社や学校に行けなくなってしまうレベルだ。風邪に似た症状から始まる場合もある。診断は、『大うつ病』の基準を満たしているうえに、甘い物を中心とした過食、いくら寝ても昼間も眠くて仕方がない。こうした症状が2年以上続きます」
貝谷医師のいう「大うつ病」の基準を別表に示した。これに該当し、加えて「過食や過眠」の症状があれば、精神科や心療内科の専門医にかかろう。
■強い光で治療
病院では、強い光を体に当てる光照射と、薬物治療が中心となる。光照射は、一般的な学習スタンドの2~3倍といわれる3000ルクス程度の光を毎朝、体にあてる。薬物治療は、炭酸リチウムで体のリズムを整える。
「自宅では、朝起きたら、40ワット4本くらいの蛍光灯を全部つけて1時間くらい浴びるようにしたい。壁に立てかけて行うのが効率的だ。これらは予防的にも使えるため、今の時期から自分で強い光を浴びる習慣をつけてほしい」(貝谷医師)とアドバイスする。
■1時間以上歩く
このほか、ビタミンB12を含む食材も睡眠の覚醒のリズムを整えるといわれている。しじみやあさり、牛肉レバーなどを積極的に摂ろう。
そして、少し軽くなってきたら、散歩でリズムを作る。1日5~10キロ、1時間以上、汗をびっしょりかくのがポイントだ。
「散歩だけで完全な予防は厳しいが、適切な治療のあとに行うと、リズムを整える効果が期待できます。季節性うつ病は、人格的に円満で面倒見のよい人がかかりやすい傾向にある。ご自身の性格を見つめなおす必要もあるでしょう」(貝谷医師)
■「大うつ病」の診断チェックリスト
(1)ほぼ毎日、一日中、気分がゆううつだ
(2)ほぼ毎日、一日中、何に対しても興味と喜びを感じない
(3)1カ月で5%以上、体重の増減があった。またはほとんど毎日、食欲の減退がある。あるいは食欲が過剰だ
(4)ほぼ毎日、寝つけない、眠れない。早朝に起きてしまう。あるいは、寝すぎてしまう。これらのいずれかがある
(5)ほぼ毎日、イライラする。あるいは動作や会話が遅い
(6)ほぼ毎日、すぐに疲れる。あるいは気力が続かない
(7)ほぼ毎日、自分に価値がないと思う。または罪悪感がある
(8)ほぼ毎日、思考力、集中力、決断力の低下
(9)死ぬことをしばしば考えたり、自殺の計画を考えたりする
※(1)か(2)のいずれかを含んで合計5つ以上に当てはまる場合は「大うつ病」の疑いがある。加えて、過食(甘い物が中心)と過眠がある場合は、「季節性うつ病」の疑いがある