配偶者暴力(DV)の被害を訴えていることを示す公的証明書について、昨年度は少なくとも9府県の窓口で発行に最長10日以上かかったケースがあることが毎日新聞のアンケートで分かった。30日を要した窓口も1カ所あった。証明書は加害者に居所を知られないよう自治体に住民基本台帳の閲覧制限を求める際などに必要で、発行に時間がかかれば被害者に危険が及びかねず、改善を求める声があがっている。
◇避難先特定の恐れ
アンケートは5~6月、配偶者暴力相談支援センターの機能を持つ各地の行政機関のうち、中核的な役割を担う各都道府県の婦人相談所を対象に郵送で実施した。47相談所のうち、証明書を発行するまでにかかった最長期間は31施設、平均期間は28施設から回答を得た。
証明書は、婦人相談所の相談員らが窓口に出向いた被害者から話を聞いて作成し、早ければ即日、被害者に手渡す。10日以上かかったケースがあると回答した相談所は「相談者に受け取りのために再来所してもらう必要があり、日程調整に時間がかかった」「複数人の決裁が必要だが、上司が出張で不在だったというような事情で時間がかかった」などの理由を挙げた。最長が30日だった相談所は「一度発行したものの、内容の訂正が必要になり時間がかかった」と説明した。
また、ある相談所は「一時的に保護されていた施設を退所した後は、郵送でやり取りするため時間がかかる場合がある」と回答。反対に「間違いを避けるため郵送による発行はしていない」という相談所もあり、窓口によって対応が分かれていることがうかがえた。発行までの平均期間は10年度2.2日、11年度2.5日だった。
一般社団法人「全国女性相談研究会」事務局の吉祥(よしざき)真佐緒さん(43)は「時間がかかれば住民基本台帳の閲覧制限などが遅れ、加害者に行方を探る時間を与えてしまう。避難先で行政サービスを受けようとする時にも支障が出る」と指摘。被害者が日程をやりくりして窓口に出向かなければならないケースが多いといい「窓口側に都合のいい現状を見直すべきだ」と求めている。
◇解説…同じ支援受ける仕組み作り必要
DV被害者のための公的証明書は、加害者の追跡を逃れたり、避難先でさまざまな公的支援を受けようとする時に重要な役割を果たす。だが、毎日新聞のアンケートに応じなかった婦人相談所もあり、証明書発行の実態は必ずしも明らかではない。
制度を所管する内閣府は証明書発行までの期間や郵送発行の可否について「現場の判断に任せる」として、一律の基準を設けていない。発行期間の調査もしていないといい、男女共同参画局の担当者は「事案の内容によるので、発行までの期間だけでは問題があるとは言えない」と話す。
だが、関東地方で活動する被害者支援団体のメンバーは「緊急性が高い時には、センターではなく警察署に行って証明書を出してもらうことがある」と明かす。被害防止と被害者保護のためにDV防止法に基づいて設置された専門機関のセンターが、警察より対応が遅いと見られているのは存在意義に関わる。
DV防止法施行から10年余り。11年度、全国のセンターに寄せられた相談は過去最多の8万2099件に上った。被害者の置かれた状況はそれぞれ異なり、求める支援も違う。どこにいても同質な支援が受けられる仕組みを作るために、国は全国の窓口の実態を調査・検証すべきだ。
◇DV被害に関する公的証明書◇
配偶者暴力の被害相談を受けたことを証明するため公的機関が発行する。全国217カ所の配偶者暴力相談支援センターの一部や警察署などが、被害を訴えた人の申請に基づき作成。加害者に居所を知られないよう自治体に住民基本台帳の閲覧制限を求めたり、社会保険の扶養家族から外れる手続きをする際に必要となる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120820-00000005-mai-soci