◇痛み・炎症抑え、回復待って
札幌市内の男性会社員(48)は10月中旬、仕事中に突然右肩に強い痛みを感じた。「五十肩かな」と気にしないようにしていたが、じんじんとする痛みは時間がたつにつれ強くなった。
振動が伝わると痛みが激しくなるため、ひじ、手首も動かせず、歩くこともままならない。布団に入っても激痛で眠れなかった。
我慢できず、2日後に整形外科を受診。レントゲン撮影をすると、右肩の端に小さな塊が白くはっきりと写っていた。診断は「石灰沈着性腱板(けんばん)炎」。医師には「直径2センチくらいの石灰の塊がある」と言われた。痛み止めの注射を打ってもらい、炎症と痛みを抑える飲み薬や座薬を処方してもらった。
注射で一時的に痛みは治まったが、箸も持てない状態は丸4日間続いた。「その後、日に日に肩を動かせる範囲が広がった。『今日は右手で歯ブラシが持てた』など、徐々に普通の生活ができるようになった」。週1回、計1カ月ほど通院し、日常生活に困る痛みはなくなったという。
◇発症原因は不明
石灰沈着性腱板炎は、「腱板」という組織に、骨や歯を構成する主成分で石灰の一種、ハイドロキシアパタイトが沈着し強い痛みが生じる病気だ。石灰性腱炎とも呼ばれる。腱板とは、肩の屋根にあたる骨(肩峰(けんぽう))と上腕骨の間にある四つの筋肉・腱の総称。石灰は膝など、どの関節にもたまることはあるが、肩関節が一番多い。
広瀬聡明・札幌医科大助教(整形外科)は「激烈な痛みが起こるのは石灰が溶け始めた兆候で、溶け出した石灰を体が異物とみなし、炎症反応が起こるためと考えられる」という。医療機関では治療として、ステロイドとヒアルロン酸、局所麻酔薬を組み合わせて注射して痛みを抑え、抗炎症作用のある飲み薬を処方したりする。
広瀬さんによると、国内で肩の痛みを訴えて受診する患者の6~8%は石灰が沈着しているという。患者は40~50代の女性が多いが、生活習慣や運動歴などに目立った共通点はなく、発症原因ははっきりしていない。広瀬さんは「(肩関節周辺の炎症が原因と考えられる)五十肩では腕を限界まで動かしたときの激痛と、安静時のじんわりとした痛みがあるのに対し、石灰性腱炎は、ある日突然、肩を動かしていない就寝時などに激烈な痛みが始まる」と話す。
石灰のたまり始めのころは自覚症状はほとんどない。石灰が増えて腱板が腫れると、腕を真横や前に動かすときに、何かに引っかかるような違和感を覚えるようになるが、安静時の痛みは少ない。
ところがある日突然、強烈な痛みが生じる。あまりの痛みに、その後の肩への影響を心配する人もいるが、自然に回復する。痛みが軽くなっても石灰が残る患者もいて、手術で石灰を取り除く場合もある。最近は小さな切り口から内視鏡を入れて切除する、関節鏡視下手術を行う医療機関が増えている。
◇姿勢正し軽く運動
広瀬さんは、石灰が完全になくなるまでの間、猫背を避けて姿勢を良くすることと、可能な範囲で肩のストレッチをすることを提案する。
肩峰の下の組織は元々血行が悪いため性質が変わりやすく、動かすことで摩耗してしまうなどの理由から、比較的傷みやすいと考えられている。姿勢が悪いと腕を動かすときに腱板が肩峰に引っかかり、炎症がさらに悪化したり、周囲の組織に広がったりしやすくなる。
ストレッチは、肩の可動域(動かすことができる範囲)を確保したり、姿勢を維持するのに必要な筋肉を鍛えるのが目的だ。「肩を自然に下ろし、胸を張った状態で5秒間停止」「壁を押すように手を前に出して力を入れたまま5秒間止める」などの簡単な運動でも、その後の痛みを軽減できるという。
絶対に避けたいのは、痛みを我慢したままの無理な運動。広瀬さんは「痛みを避けようとすると、不自然な動かし方をして姿勢が悪くなる。痛みは我慢せず、ストレッチもできる範囲でやってほしい」と話す。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20111225ddm013100045000c.html