子ども服の仕様によって、子どもが大けがすることがあるのを知っていますか。とくにひも・リボンやフードがついている衣類は危険です。子どもの事故に詳しい、小児科医 山中龍宏先生と、「子ども服の安全性向上プロジェクト」で活動する、NACS標準化を考える会代表・田近秀子さんに危険な子ども服や事故の事例について聞きました。
子ども服にもJIS規格「JIS L4129(よいふく)」があります
2015年、子ども服にもJIS規格が制定されました。JIS規格とは、消費者が安心して製品を購入・利用できるようにするための国内の統一基準です。
「子ども服のJIS規格は消費者の声を受けて制定されていて、覚えやすいように『JIS L4129(よいふく・よい服)』となっています。とくに衣類についたひもやリボンが、遊具などに引っかかった拍子に首が絞まったり、転倒したりして危険なため、JIS規格では頭や首回りから垂れ下がるひもや、背中のひも(リボン)などはつけない基準が設けられました」(田近さん)
「洋服のひもが自転車にひっかかった」 など、子どもたちから報告が
「子ども服についているひもやリボンが危険!」と言われてもピンと来ないママ・パパもいると思います。しかし、ひもつきの服を着ていてヒヤッとしたことがある子どもたちは意外と多いそうです。
「以前、子どもたちに聞き取り調査をしたことがありますが、小学生の子どもたちからは
●学校の机に、洋服のひもが引っかかって転んだことがある
●ズボンのひもを自分で踏んで転びそうになった
●自転車に乗っていたとき、ジャンパーのひもが自転車に引っかかって転びそうになった
などの声が聞かれました。調査時にそばにいた保護者たちの中には『そんなことあったの? 初めて聞いた!』と驚いている人もいました。
乳幼児では、遊具にひもがひっかかったり、友だちにひもやリボンを引っ張られて転んだりする危険性があります。またズボンの裾(すそ)にひもがついていたりすると、電車のドアにはさまる危険性もあるでしょう。
こうした事故を防ぐには、ママやパパが意識して、事故につながるリスクのある、垂れ下がったひもやリボンがついていないデザインの服を選ぶことが大切です」(田近さん)
フードはJIS規格対象外。だけどフードが原因で、4歳児の首が絞まる事故が発生
前述の子ども服に制定されたJIS規格では、頭や首回りから垂れ下がっているひもや背中についているひも、リボンなどはつけない基準が設けられていますが、パーカなどのフードはJIS規格対象外です。しかし山中先生は、パーカなどのフードも危険と言います。
「以前、4歳の女の子で、パーカのフードがドアの取っ手に引っかかって首が絞まる事故が起きています。
とにかく子どもの首の回りにひもやフードあるのは危険と覚えておいてください。万一の場合は、窒息死することもあります」(山中先生)
4歳の女の子の事故については、日本小児科学会 傷害速報でも報告されています。事故の概要は次のとおりです。
玄関の外に出ようとした女の子のフードが、内ドアの取っ手に引っかかり首が絞まる
2012年3月、4歳9カ月の女の子が着ていたパーカのフードで、首が絞まる事故が起きています。
事故当日は日曜日で、女の子は家族で自宅にいて、午後1時30分ごろ、1人で玄関を出て外へ。10分後、ママが様子を見に行くと、女の子はドアの外にいるものの、内ドアの取っ手の下部分にパーカのフードが引っかかっており、女の子が泣いていたため急いでドアを開けて、パーカを脱がせました。パーカの首元が女の子の首に巻きついていた状態です。
パーカを脱がせて助け出したところせきをし始めました。そのとき、口唇の色は黒ずんでいました。1時45分ごろ、受診先を探したものの近隣で診てくれる医療施設がなく、1時間後に受診できました。
目のまわりにうっ血斑、首の前方に線状の皮下出血が認められ1日入院。とくに状態の悪化が認められなかったため、翌日には退院となりました。
水筒のひもが遊具に引っかかり、5歳児が失神
山中先生は、こうした事故は衣類だけ注意すれば防げる訳ではないと言います。
「水筒、肩かけのポシェット・カバン、自転車用ヘルメット、帽子などの小物類も含めて首の回りのひもやリボンは危険という認識が必要です。
2020年には、水筒を身につけたまま幼稚園園庭の遊具で遊んでいた5歳の女の子が、水筒のひもが遊具に引っかかり、首をつった状態になり失神する事故が起きています。
こうした事故を防ぐには、衣類だけでなく小物類にも注意して、公園で遊ぶときなどは、子どもには水筒やヘルメット、カバンなどは持たせないことが大切です」(山中先生)
5歳の女の子の事故についても、日本小児科学会 傷害速報で報告されています。事故の概要は次のとおりです。
幼稚園のお迎えの一瞬で、事故が発生! 遊び慣れた遊具で首をつった状態に
2020年、幼稚園にママが迎えに来て、下の子のお世話をしている間、5歳4カ月の女の子が、通園リュックサックと水筒を身につけたまま、1人で園庭の遊具で遊んでいました。
高さ1m30cmの遊具から降りようとしたとき、水筒のひもが遊具に引っかかり、首をつった状態になり、女の子は1分ほどもがいたあとに失神しました。園庭に設置されていた防犯カメラの記録を見ると、女の子は2分ほど首をつった状態だったと推測されます。
園庭にいた数名の子どもたちが気づき、速やかに救助され、女の子は1分ほどで意識を回復。自家用車で医療機関を受診し入院しました。経過良好のため2日で退院しています。
「暑くなると熱中症対策で、外に行くとき水筒を持って行く子は多いので、こうした事故事例をひとごととは思わないでください」(山中先生)
また田近さんは、コロナ禍でショッピングをしに外出する人が減った一方、ネットショッピングやフリマサイトなどを利用する人が増えたことを危惧(きぐ)しています。
「ひもやリボンがついた危険な子ども服は、百貨店や小売店では見かけなくなりましたが、ネット通販やフリマサイト、手作りサイトなどではいまだにJIS規格に適合していない危険な子ども服が販売されています。子ども服を選ぶときは“かわいい”だけで選ばずに、安全性を十分確認してください」(田近さん)
協力/NACS標準化を考える会、公益社団法人 日本小児科学会、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
ひもやリボンによるヒヤッと体験は、小さなものも含めるとかなり多いのではないかと考えられます。暑くなってくると、公園などに行くときは子どもに水筒を持たせたり、ひもつきの帽子をかぶせるママ・パパもいるでしょうが、事故のリスクをあらためて考えて、子どもの衣類や小物類などを見直してください。
※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
監修者
【小児科医】山中龍宏 先生
PROFILE:緑園こどもクリニック 院長
1974年東京大学医学部医学科卒。 東京大学医学部小児科講師、焼津市立総合病院小児科科長、こどもの城小児保健部長などを経て、 1999年4月より「緑園こどもクリニック」院長。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取ったことから事故予防に取り組み始め、現在、産業技術総合研究所人工知能研究センター外来研究員。内閣府 教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
監修者
田近秀子 さん
PROFILE:NACS標準化を考える会代表。身のまわりの安全を高めるために、製品の品質や安全性について消費者の視点で取り組んでいる。小中学校で「人権教室」を開催し、子どもの健やかな成長と安心な生活を支援している。消費生活コンサルタント。人権擁護委員。