「預金小切手プラン、ご存じですか」。金融機関で多額の現金を引き出そうとする高齢者らに対し、職員が「勧誘」するケースが増えている。おトクな新商品ではない。増え続ける振り込め詐欺などの特殊詐欺対策として、全国に取り組みが広がっているのだ。そのメリットとは--。【石灘早紀】
◇発見・摘発「一石二鳥」
「400万円を下ろしたいのですが」。今年1月、青森市内の金融機関に70歳の男性が訪れた。窓口の職員が理由を尋ねたところ、自宅に社債の購入を持ちかける案内が郵送で届き、「購入すれば3.9倍の価値になる」と持ちかけられたという。ピンときた職員は「お金を落としたり、盗まれたりしたら大変でしょう」と、すかさず用意していた預金小切手の現物を取り出した。「すぐに発行でき、換金も確実」「盗難や詐欺に遭っても数日なら支払いを止められます」。説明をしている間に、別の職員が青森県警に連絡。警察官とともに約1時間かけて説得し、ようやく思いとどまらせた。
預金小切手をツールとする特殊詐欺対策は、既に全国約40の県警などが地元金融機関に呼びかけ、一定の手順に沿って実施されている。金融機関によっては「プラン」などの呼称も付け目新しい商品を装っているが、預金小切手自体は古くからあり、住宅ローンの頭金など多額の支払いをする時に使われる。当座預金口座を必要とする通常の小切手と違い、事前に金融機関に現金を持ち込めば作成してもらえる簡易な小切手だ。
職員が内容を聞き、問題がないと判断されるケース以外は原則として預金小切手の利用を勧め、拒まれたら警察に通報する。小切手ならば、仮に犯人側に渡っても現金化には「足跡」が残る身分証明が必要な上、手続きに数日かかる間に支払い停止の措置が取れる。「高齢者の背後にいる人物が小切手を拒否すること自体、いかがわしさの証拠になる」(県警関係者)。声かけや説得の機会を増やすことによる「早期発見」と摘発の一石二鳥を狙う。
預金小切手は「預手(よて)」の名でも知られ、匿名性が高かったことから、企業の裏金や不正資金の送金手段などとして世間を騒がせたこともあった。1999年以降、「オレオレ詐欺」などの振り込め詐欺の対策として金融取引の本人確認が徹底され、不正利用は減少した。受取人を指定する「記名式」や、現金化できる金融機関を限定する「線引き」などの手続きも徹底すれば、防犯効果を高められる。
2013年12月に全国で初めて導入した静岡県では、昨年の特殊詐欺被害が215件(総額10億5634万円)に上る一方、預金小切手による対策で139件(同4億3392万円)を防いだ。今年1月26日から金融機関との連携を始めた青森県警でも、元日から3月11日までに発生した33件のうち17件、総額約2700万円の被害を防いだ。青森銀行によると、当初は「自分のお金なのに、何で下ろせないのか」と怒り出す人が多かったが、そうした苦情も減ってきたという。
青森県警生活安全企画課の太田泰文次長は「最後は自分で気付いてもらうしかない。そのために、まずはじっくり話をして被害防止につなげたい」と話す。
【ことば】預金小切手
支払いなどのため、あらかじめ現金を金融機関に預け、発行してもらう小切手。証票上、金融機関が振出人として支払いをすることから「自己宛て小切手」とも呼ばれる。受取人側にとっては、金融機関が自らの責任で振り出した小切手であり、確実に現金化される信用性の高い有価証券として扱われる。受取人は自らの取引金融機関や、指定された金融機関窓口に出向いて取り立てを依頼する。
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