障害児が通う横浜市内の「放課後等デイサービス」事業所で昨年1月、知的障害のある女児が職員からわいせつな被害に遭う事件が発覚した。犯行は周囲に気付かれぬまま、数カ月にわたって繰り返されていた。自ら助けを求めるのが難しい障害児を性被害からどう守っていくのか。支援現場や行政は、重い課題を突き付けられている。
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「娘さんが被害に遭っているかもしれない。動画を確認してほしい」
横浜市内に住む女性(41)は、警察から受けた電話を、今も忘れることができない。
特別支援学校の小学部に通う長女には知的障害がある。放課後に通う「放課後等デイサービス」で昨年1月、職員の男(42)が利用者の女児にわいせつな行為に及んでいたことが発覚。知的水準が幼児程度の長女は、被害を受けていたとしても理解するのが難しいため、「もしかしたら娘も被害者ではないか」との不安に襲われた。事業所から「被害に遭っていない」と説明されても、気持ちは落ち着かなかった。
警察からの電話は、発覚から4カ月後だった。警察署で、男が撮影したという動画を見せられた。脱がされている衣服などから、長女だと分かり、女性は泣き崩れるしかなかった。
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長女は知的障害を伴う自閉症で、幼いころは靴を履かずにパジャマのまま外を徘徊(はいかい)したり、雨の日でも庭に出て遊んだりの連続だった。目を離すことができず、「親はへとへとになった」。外で犬がほえているので何かと思うと、2階のトイレの窓から抜け出して屋根に上っていたこともあった。
もちろん、苦労だけではない。成長がゆっくりな分、一つのことができるようになる喜びは大きかった。とはいえ、毎日の生活は大変で、夫が働いている日中に1人で世話をするのに限界を感じ、放課後に預かってくれる場所を探した。どこも空きがない中、ようやく見つけたのが、今回の事業所だった。
通い始めると「楽しかったよ」とほほ笑む長女。新しい遊びを体験するなど、これまでと違う世界を満喫しているようだった。それなのに-。
「一生守っていく」と誓ったはずの一人娘を守れなかった女性は、自らを責め続けている。
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事件の被害者は、立件されただけで4人に上った。ある家族は男が送迎を担当していたために自宅を知られてしまい、恐怖から持ち家を手放さざるを得なかった。被害を受けたことを理解しながら、周囲にうまく伝えられないことで二重に苦しんだ女児もいた。女性の長女は被害を理解できておらず、親として「また同じように不審者に狙われるのでは」と不安が消えない。
支援現場への信頼も消えうせた。安心して任せられる事業所に長女を預けたいが、「客観的に評価できる指標はなく、情報はママ友同士の口コミが頼り」と女性。特に新規の事業所では情報自体が少なく、保護者が事前にサービスの質を見極めるのは困難という。
今のままでは、性的欲求を満たすために障害児が利用され、再び苦しめられるのではないか。だからこそ、強く望む。「犯人が処罰されたら終わりではなく、事業所と行政には再発防止を徹底してほしい」
◆放課後等デイサービス◆
放課後や長期休暇中の障害児に対し、自立した生活を送るために必要な訓練や、居場所を提供するサービス。2012年施行の改正児童福祉法で、それまで障害ごとに分かれていたサービスが一元化された。発達障害を含めた障害のある児童・生徒(主に6~18歳)が対象。療育手帳や身体障害者手帳の有無は問わず、児童相談所や医師などから、療養の必要性が認められれば利用できる。厚生労働省によると、14年4月の全国の事業所数は4595カ所で、利用者数は7万9680人。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150218-00126813-kana-l14