相談内容
20歳の誕生日に高校時代の友人から「人生を変えてやる」と電話で呼び出された。食事をしながら友人から、投資用DVDを購入してから自分の人生が変わったことなどを聞かされた。さらに、「投資の話に詳しい人がいて、話だけでも聞いてほしい」と言われ、断りきれずにそのまま別の喫茶店で販売業者と会った。販売業者から「月に少なくとも20万円は稼げる」と言われ、投資用DVDの説明を受けた。
この時には人を紹介することでお金をもらえるとは思ってもみなかったし、友人を信頼していたので、とても断れる雰囲気ではなく、約60万円で投資用DVDを購入する契約に同意した。
翌日、お金の借り方を友人から指南されたとおり、指定された学生ローン複数社から「車を買う」という名目で合計約60万円を借りた。
再び喫茶店に行き、販売業者に代金として現金約60万円を渡し、契約書に記入して投資用DVDを受け取った。
実際の投資のやり方などについて販売業者に聞いたがなかなか教えてもらえず、やっと証券口座の開設について教えてもらった。しかし、既に投資用DVDを購入した際の借金を返済するのに精一杯で投資するお金自体がなかった。
販売業者に「借金の返済に困っている」と言うと、誰かを紹介すると1人につき10万円渡すということばかりを強調された。そもそも誰かを紹介することで利益を得られるということを知っていたら絶対に契約はしなかった。解約・返金してほしい。
(20歳代 男性 学生)
結果概要
相談を受け付けた国民生活センター(以下、当センター)は、相談者に勧誘の経緯や解約・返金を求める詳細な文書を作成し、販売業者に送るように伝えた。販売業者の代表者より「書面を確認した。解約に応じる。解約が立て込んでいるので25万円を返金する」との提示があったが、当センターは「相談者が書面に記載したとおり、不実告知、断定的判断、適合性の問題があり、全面取消しの案件と考えている」という趣旨の交渉を行った。複数回にわたって交渉を行った結果、「約30万円を返金する」と回答があった。
当センターは、相談者が借金の利息分のみを返金している状況にあり、元金を返済することができていない点、不実告知、断定的判断、適合性の問題がある点、借金返済に困っている相談者に人を紹介すれば10万円の報酬が得られると告げ、必然的に人を紹介せざるを得ないような状況に追い込み、さらに友人を勧誘するように強要している点などさまざまな問題点を指摘し、返金額の根拠について説明を求めたが、販売業者は根拠に関しては回答するつもりはないという態度を固持した。
相談者に提示された条件を伝え、弁護士相談を受ける意思がないか何度も確認したが、提示された金額での早期解決を強く希望したため、販売業者が作成した合意書の内容を確認のうえ、返金額約30万円で販売業者と合意書を交わした。
合意書を送付してから間もなく返金されたと相談者から報告があり、本件相談を終了することとした。
問題点
このようなトラブルでは、きっかけが友人・先輩など親しい人からの勧誘であり、友人の言うことなら間違いないだろうという先入観と友人との信頼関係があるため、勧誘を受けた時点では「投資用DVDを見れば儲(もう)かる」という儲け話を信じている。また、販売業者から喫茶店等で友人と一緒になって勧誘され、非常に断りにくい状況・雰囲気になっている。じっくりと冷静に考える時間が与えられず、喫茶店等からそのまま一緒に学生ローンに連れて行かれ、借金をさせられ現金で投資用DVDを購入させられる。
投資をするために証券口座を開設しても、相談者は既に投資用DVDを購入する際に学生ローンで多額の借金をしているため、投資をするお金はなく、借金返済のためにアルバイトをしても、容易に返せる金額ではないため、学生ローンの借金だけが残り、毎月利息を支払うだけで精一杯の生活となってしまう。
借金返済に困っていることを販売業者に言うと、販売業者から「誰か紹介してくれたら1人当たり10万円あげる」などと高額な紹介料を得られる説明を受け、はじめて、信じていた友人がお金のために自分に投資用DVDの購入を勧めたことに気づかされる。しかし、それでも友人を信じたいという気持ちや、友人関係を壊したくないという気持ちもあるため、家族や大学などに相談をしづらくなっている。なかには、そもそも解約ができないものと考えている相談者もいる。
こうしたトラブルに巻き込まれた大学生は、自分自身も借金返済のために別の友人を勧誘せざるを得なくなり、被害者が加害者となる悪循環が被害を拡大させるため、相談が急増している。
販売業者が契約後しばらく経ってから紹介料の説明をしているのは(1)連鎖販売取引の規制対象となることを逃れるため(いわゆる「後出しマルチ*」)(2)契約時点でマルチであることを気づかせないため(3)8日間(訪問販売)のクーリング・オフ期間中に解約させないためという理由があると考えられる。
ターゲットが大学生であるため、毎年、必ず新しい勧誘対象者を確保することができ、被害がなくならない。同種の相談では20歳の相談者が50%近いことも大きな特徴の1つである。これは、未成年者取消を回避するためのものと考えられる。社会経験も無く、申込書・契約書・確認書などの書面がどのような意味を持ち、どのような契約内容なのか、高額な借金をすることの重大性を理解していない20歳になったばかりの多くの大学生がねらわれ、トラブルに巻き込まれているものと考えられるため、注意が必要である。
- *連鎖販売取引上の特定利益について、契約後に説明をする手法。
http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/201409_1.html