このところ、フィットネスアプリがあなたのデータを蓄積し、広告会社や都市計画立案者などに販売しているという噂を耳にすることが多くなりました。これらのアプリはその性質上、他人に知られたくないような個人情報を多く含んでいるものなので、実際に何が行われているのかが気になるところです。
スマホ向けのフィットネスアプリは本当に多く、各種エクササイズにつき数百ものアプリを見つけることができます。それぞれのアプリが、データの取り扱いに関するプライバシーポリシーを定めています。同様に、妊娠計画、禁煙、体重減などを支援する健康系アプリの多くも、あなたが入力したデータを収集し、民間企業に販売しているケースがほとんどです。
どのアプリも同じことをしていますが、とりわけフィットネスや健康管理アプリには繊細な情報が多いもの。悪い人の手に渡れば、あなたに危険が及ぶことだってあるのです。
なぜ、あなたの健康やフィットネスの情報が求められるのか
一般的に、アプリは広告会社に販売できる情報を求めています。12の健康系およびフィットネスアプリを対象にFCCが実施した最新の調査では、アプリで収集したデータが、合せて76もの第三者企業に販売されていました。このデータには、氏名、メールアドレス、運動習慣、食生活、医学的症状、場所、性別などの情報が含まれていたとのこと。このような調査は以前にも行われています。健康系アプリのプライベートポリシーを調査すると、その多くが広告での使用を目的にデータを収集することをうたっているのです。
ここでいう「広告」は、あらゆる形態や規模のものが含まれます。わかりやすい部分では、生理トラッカーに表示される痛み止めの広告、フィットネスアプリに表示される自宅近所のランニングシューズ会社、目標達成アプリに表示されるジムのメンバーシップ広告など。FacebookなどのSNSと連携している場合、ウォーキングでよく通る場所にある企業や参加申し込みをしたばかりのマラソン大会の情報に基づくローカル広告が表示されることもあるでしょう。
データを収集する目的は、あなたのことを深く知り、効果的な宣伝を行うこと。Nike、Fitbitなど、現時点ではデータを販売していない企業もたくさんありますが、その場合でも蓄積されたデータは社内で別のことに利用されているはずです。
データ販売がもたらすかもしれない問題
その他のことと同様、データ収集に関して心配なのが、それによって今後起こりうる問題です。例えば、フィットネスアプリ「Moves」は、「現時点でデータ販売は行わない」と明言していますが、裏を返せば今後は販売するかもしれないといえるのです。これらのデータが1つに集まったとき、あなたという人物に対する明確なイメージができあがります。「Ad Age」では、私たちが思いつかないような例を提示しています。
アメリカ保健福祉省傘下の国家医療IT調整官室でチーフ・プライバシー・オフィサーを務めるJoy Prittsさんは、セミナーのパネルセッションでこう語りました。
「これらのデータを蓄積してひも付けていくうちに、何が健康に関するデータで、何がそうでないのかの境界がわからなくなってきます。例えば、かつてはある人の出費パターンが健康データになることはありえませんでした。でも、それが治療と結び付けられるのであれば、健康情報にもなりうるのです」
「Digital Trends」は、保険会社がこれらのデータをどう利用する可能性があるのかが重要であると主張しています。
理論上、保険会社は、MovesのデータをFacebookから購入することができます。保険会社は何年も前から、リスクのある人物を特定するために、オンラインデータを探し回ったり、Facebookのマイニングをしています。健康情報とフィットネス情報の統合は、Facebookにとっても、保険会社にとっても宝の山なのです。
どの国でも行われていることではありませんが、米国の保険会社は、保険料を引き上げるために喫煙者を特定しなければなりません。Movesが収集しているデータの種類を考慮すると、保険会社(もしくはFacebook)はいずれ、外出傾向や喫煙傾向から、喫煙者を特定できるようになるかもしれません。ちなみに喫煙者の健康保険料は、すでに最大50%も高くなっています。
そんなのまだ先の話だと思うかもしれませんが、決して不可能なことではありません。理論的には、人口統計データと合わせるだけで、特定の地域の特定の年齢層に関するリスクを計算し、保険料を設定することも可能なのです。
多くのプライバシーの問題と同様、フィットネスアプリのデータ収集は、実際に起きていることではなく、起こりうることが重要になります。ひとつのアプリがあなたの移動、現在地、健康情報を把握できるとしたら、それは非常に深刻なプライバシー侵害にあたります。
データ販売によるあなたのメリット
収集されたデータは、あなたのためになることにも利用されています。例えば、GPSトラッキングアプリの「Strava」が都市計画立案者に販売しているデータは、新しい自転車専用レーンの設置検討に利用されているそうです。同様に、「Ototo」は公共交通機関にデータを販売しています。
この種のデータは、都市計画のような分野にはもってこいです。都市計画立案者が自転車が多い道、ランニングによく使われている道、公共交通機関の利用状況を把握できれば、データを街の改善に役立てることができます。同様に、睡眠アプリが収集したデータは、目覚まし時計の改善に役立つかもしれません。さらに、フィットネスアプリのデータは、気温に基づく最適な服の開発に使うこともできます。つまり、アプリを利用することで、大規模調査ができる時代なのです。ただし、利用者による合意は必要ですが。
データの広告利用だって、悪いことばかりではありません。自分に関係のある広告が増えることで、最終結果はよくなるはずです。あなたが出かける先を広告主が知っていれば、あなたは関連性の高い便利な情報を目にすることができるのです。ちょっと怖いし、お財布にも優しくないかもしれませんが、まったく関心のない広告を連発されるよりはずっとマシではないでしょうか。
データの安全性を確保するには
アプリにデータ収集されるなんて不愉快だというあなたは、アプリの利用を止めた方がよさそうです。利用規約やプライバシーポリシーを読むことはできますが、頻繁に内容が更新されるため、誰があなたのデータにアクセスできるのかを常に把握しておくのは至難の業。それに、「Mother Jones」の記事にもあるように、プライバシーポリシーは曖昧に書かれていることが多く、目を通しても混乱してしまうことが多いのです。
デジタル民主主義センターのJeffrey Chester理事は、これらのプライバシーポリシーはあまりに曖昧なため、たとえ今は販売していなくとも、今後企業が健康データを販売することも可能だと言います。「データを販売しませんと約束している会社は、まだそれを利用したビジネスモデルを構築できていないだけなのです」
コロラド大学ロースクールのScott Peppet教授は、Fitbitのような会社が、いつかはデータ共有に動く可能性を認めています。同教授は、昨年のFTCカンファレンスで、「Fitbitのデータを利用すれば、あなたという人物の、驚くほど詳細かつ豊富な絵を描くことができます。そのデータは質が高いので、保険料の算出が可能です。おそらく、クレジットスコアだって極めて正確に予測できるのではないでしょうか」と述べています。
もちろん、これらのアプリにニセのアカウントで登録すれば、データとあなた個人が結び付けられることはありません。根本的な解決策ではありませんが、個人情報が流出することはないでしょう。
現時点で、多くのフィットネスアプリがデータを販売しているのは間違いありません。だって、それらの多くはタダなのですから。お金を払わないのであれば、あなたが商品になるしかないのです。それは必ずしも悪いことばかりではありません。とにかく、あなたの感情がどうであれ、何よりも大切なのは、現状を正確に把握しておくことではないでしょうか。
Thorin Klosowski(原文/訳:堀込泰三)
http://news.goo.ne.jp/article/lifehacker/bizskills/healthcare/lifehacker_38580.html