山菜採りなどで山に入り、ツキノワグマに襲われる人身被害が東北地方などで相次いだ。春から夏の山では冬眠明けのクマが動き回る。餌となるドングリの昨秋の実りが良かったため、今年生まれた子グマの数が多い可能性も指摘されている。子グマを守ろうと母グマが凶暴になる恐れがあり、山では注意が必要だ。(寺田理恵)
◆豊作?凶作?
ツキノワグマ出没注意報が8年ぶりに発令されている岩手県。5月5日、遠野市の山林で山菜採りをしていた夫婦が子連れのクマに襲われ、顔をひっかかれるなどのけがを負った。同県自然保護課によると、今春の人身被害は5日までに5件で、計6人。平成25年度の年間の人身被害7件11人に比べると速いペースだ。
担当者は「昨秋はブナの実が豊作だったのでメスの栄養状態が良く、子グマが多く生まれていると考えられる。クマは力が強いので、出合わないようにすることが大事」。
同県が注意報を発令した際の指標はブナの実りの周期。クマは冬眠前の秋に餌のドングリが不足すると人里に出没する。東北地方では出没件数とブナの実りが関係し、奥羽山系側の地域では豊作の年には出没が少なく、凶作の年に多い傾向がある。豊作の年はメスが妊娠に適した状況となるという。
大豊作の翌年は凶作に転じており、25年に大豊作だった奥羽山系では今年、凶作と見込まれる。このため、「子連れのクマが出没する可能性が高いうえ、夏から秋にかけ、多くのクマが食物を探して広範囲に動き回り、人里周辺に頻繁に出没する」と予測した。
岩手県内のクマは推定約3400頭。「山と民家が近く、出合う可能性は高い」と担当者。同2900頭が生息する福島県でも、県会津地方振興局が「26年はブナの凶作が予想される」として注意喚起を行った。
◆実りも関係
東北地方以外では、ミズナラやコナラなどの実りも出没件数と関わっているとみられる。西日本ではクマの生息数が少ないなど地域によって事情は異なるが、山でクマに出合う可能性があるのは同じだ。
兵庫県内のクマの生息数は推定約700頭。同県森林動物研究センターの担当者は「クマは保護の対象。頭数が増えているためか、出没する時期が年々早まっている」と話す。クマの出没情報は例年5、6月に増える傾向があるが、今年は4月に17件と、過去最高だった23年と並んだ。
京都府森林保全課によると、同県では昨年5月から6月に出没が多く、子連れのクマが人里近くにも現れた。同課では「春や夏は指標がなく、予測が難しいが、6月の終わり頃には繁殖期に入り、オスが長い距離を移動する。山に入るときは気をつけて」と話している。
■出没「予測するのは難しい」
クマの全国的な出没の傾向について、茨城県自然博物館の首席学芸員、山崎晃司さんは「予測するのは難しい」と話す。
クマが秋に食べるドングリの種類は地域によって異なる。関東地方に多いミズナラやコナラは、豊作か凶作かが分かるのが9月頃。ミズナラの実り具合はブナと違って広い範囲で同調することがなく、局所的なばらつきがあるという。
ただ、昨秋はブナもミズナラも全国的に実りが良く、凶作だった地域が少なかった。山崎さんは「クマの繁殖の成功率が高まった可能性はある。子連れのクマは行動範囲が狭くなるが、山で出合えば子グマを守ろうとする。ハイカーや釣り人など山に入る人は注意が必要だ」と促している。
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