タバコやアルコールを始め、法律で禁止されているさまざまな薬物の乱用や薬物依存は、青少年の将来に深刻な悪影響を及ぼします。薬物乱用対策としても、その引き金になる背景や薬物依存の危険性を知っておくことが大切です。
今回は、10代~20代のいわゆる若年層の薬物問題について、親をはじめとする大人が知っておくべきことを詳しく解説します。
■悪いと知っていてなぜはまる? 薬物乱用のリスク・ファクター
薬物依存や薬物乱用が、社会的にも自身の心身にとっても非常に悪いことだということは、未成年であってもわかっているはずです。
それにも関わらず、少なからずの青少年が、タバコやアルコールをはじめとするさまざまな薬物に手を出してしまうのはなぜでしょうか? その状況と薬物の常用に至ってしまうリスク・ファクターや背景として、以下のようなものが挙げられます。
・薬物問題に対する理解の無さ、あるいは深刻な誤解
・学童期に問題行動が多かった場合
・精神疾患、特に、うつ病、躁うつ病など気分障害の既往
・親の目が子どもに全く行き届かないような状況
・問題の多い交友関係(仲間内から薬物をすすめられるような状況)
・学業が困難になっている
・親と子の絆が半ば壊れてしまったような家庭環境
・身体的虐待など、過酷な生活環境
■薬物の種類と薬物依存・薬物乱用が深刻化していく背景
青少年の間で問題となり得る具体的な薬物として、以下のものが挙げられます。
・アルコール
・タバコに含まれるニコチン
・法律で禁止されているさまざまな薬物
・有機溶剤であるシンナー
・解熱鎮痛薬、睡眠導入剤、麻酔薬、筋肉増強剤
・カフェイン(コーヒー等に含まれるカフェインも、過量になれば乱用とみなされることがあります)
これらの薬物は、中枢神経系に作用します。たとえば、タバコに含まれるニコチンは中枢神経系を刺激する物質で、アルコールに含まれるのは中枢神経系を抑制する物質です。
薬物乱用や薬物依存の症状や程度は、個々の薬物の種類だけでなく、個人の遺伝子レベルで定まる生物学的要因、そして心理的要因や日常生活上のストレスなど、さまざまな要因が相互作用するため、時に個人差が大きくなります。しかし薬物問題に共通する精神医学的な問題点は、一度に過量の薬物を摂取したことによる中毒症状、そして、その薬物を長期間摂取してしまったときに起こる依存の問題です。
たとえば、アルコールの場合、一気飲みなどで一度に過量に摂取すれば、急性アルコール中毒が起こる可能性もあります。そしてアルコールを長期間過剰に摂取し続ければ、心理的にも身体的にもアルコールに依存するようになります。アルコールが生活の中心になってしまうことで、学業や仕事、さらには対人関係においても深刻な問題が生じやすくなることも、社会生活上の大きな問題です。
青少年の中でも、10代の少年少女の場合、中枢神経系はまだ発達段階にあります。成人よりも中枢神経系へのダメージがより深刻になる可能性があることを必ず知っておきましょう。
また、違法薬物に限らず、比較的手軽に入手できてしまうタバコやアルコールにしても、ある薬物を試してしまうことは、他の薬物乱用・薬物依存の入り口になり得る点にも注意が必要です。薬物への心理的ハードルが下がってしまうことで、それ以後、他の薬物にも安易に手を出してしまうリスクが高くなることを認識してください。
■青少年の薬物乱用対策の基本はリスク・ファクターを減らすこと
いったん薬物乱用・薬物依存の状態になってしまうと、その解決法はその原因物質を二度と体内に入れないことになります。アルコールの場合は禁酒、ニコチンの場合は禁煙です。簡単に聞こえるかもしれませんが、時に非常に困難を伴います。薬物乱用対策として、何よりも大切なのは、とにかく予防することです。そのためにも、薬物問題が深刻な問題であることを充分認識すると共に、薬物に対して何らかの誤解がある場合は、それを是正することが大切と言えます。
たとえば、アルコールは場を盛り上げたり、人間関係の潤滑油になったりするという意識が強い場合、薬物としての側面を過小評価している可能性があります。子どもは親の考え方を真似やすいもの。もし親が頻繁にひどく酔っ払っている姿を目の当たりにすれば、それが自然なものだと認識してしまうでしょう。さらに酔っているときの親が上機嫌だと、アルコールはよいものなのだという刷り込みもされてしまうかもしれません。
アルコールをはじめ、薬物問題の予防としては、リスク・ファクターを一つ一つ減らしていくことが大事です。まずは家族の絆。子どもとのコミュニケーションがしっかりとれていれば、子どもが悪い状況に陥っても気づきやすいでしょう。子どもの交友関係に問題があると気付いた場合、親の力で子どもをその交友仲間から引き離すことも、時に必要になるかもしれません。
青少年、中でも10代の少年少女は自分というアイデンティティを築いている最中です。彼らは好奇心にあふれ、30代、40代の大人には無いエネルギーで新しいことにチャレンジしていきます。そんな少年少女でも、もし目の前にオオカミがいれば、普通なら決して近づいたりはしないはず。でも周りの環境や刷り込みなどから、オオカミがかわいい犬に見えてしまったら、安易に近づき大変なことになってしまうかもしれません。
薬物問題の原因となるさまざまな薬物が、子どもたちの目にいかにきちんと恐ろしいオオカミとして映るようにすべきかは、大人としてぜひしっかり考えていただきたいと思います。
文・中嶋 泰憲(All About メンタルヘルス)
中嶋 泰憲
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