目の前の電子黒板に、おとな4人が手を振る映像が映った。後ろには、ふだん目にすることのないクラシックカーが見える。
関川村立関川小学校5年1組の高橋礼人(あやと)君(11)は教室で、トヨタテクノミュージアム産業技術記念館(名古屋市)のライブ映像を見ていて、わくわくしてきた。父は自動車販売店を営んでいる。家でいつも目にする車がどう作られるのか、とても興味があった。
トヨタが生産を開始した1930年代当時の車、昔の生産ライン、現在の車の作り方……。記念館の職員がクイズを交えながら展示品を説明してくれた。いま開発中の燃料電池車の映像も。礼人君は記念館を歩いている気分になった。
《昔はこんな風に車を作っていたのかぁ。車の機能やデザインは、どうやって考えてるんだろう。》
記念館からの説明が終わると、同級生が「夢のクルマ」を発表した。タブレット端末を使って描いて紙に印刷した絵を、電子黒板の横にあるデジタルビデオカメラに向かって見せて紹介した。
「空気で走るキャンピングカーです。空も飛べて、水の中も走れます」
「ゴミを燃料にして走ります。車の名前は『ゴミエコカーDX(デラックス)』です」
子どもたちが自由な発想で描いた車を見て、記念館の職員たちは「ぜひトヨタに入って研究してほしい」と感心していた。
質問コーナーになって、礼人君は記念館の職員に質問をした。「僕の家は10月に、ハイブリッドカーを買いました。どうして作ろうと思ったのですか」。電子黒板の中の男性は「僕はプリウスの担当もしていました。97年に発売されましたが、開発は93年から。最初は、『21世紀に向けて、未来の車はどうすべきか』という話し合いからスタートしたんですよ」と答えた。
《開発に関わった人からすごい話を聞いちゃった。教科書じゃ、知ることができなかったなぁ。》
村で唯一の小学校、関川小学校は2011年度から、電子黒板やタブレット端末、テレビ会議システムなどの情報通信技術(ICT)を使った授業を始めた。NTTグループが始めた実証実験の一環で、都心部や中山間地など全国5自治体計11校の小中学校で実施されている。
関川小でインターネット中継を使って離れた場所をつなぐ「遠隔授業」は、年3回ある。同小は5、6年生全員にタブレット端末も配り、授業で使っている。
国語の授業では、自分の意見をタブレット端末に書いて、電子黒板に表示。一度にいろんな人の意見を見ることができるようになった。理科では、タブレット端末や電子黒板に天気図を表示して台風の進路を予想したり、胎児がお母さんの腹の中でどんな風に成長していくかを映像で見たりした。コンピューター室はいらなくなった。
遠隔授業のあった週末、礼人君は父・大二郎さん(40)に連れられ、東京都内で開かれた「東京モーターショー」を初めて見に行った。会場で燃料電池車の前を通りかかったときだ。
《あっ、あの車、この間の授業で見たよ。》
礼人君の言葉を聞いた大二郎さんは「名古屋から遠く離れた関川村で暮らしていても、世界一の技術を知ることができる。自分たちが子どものころには、ありえなかった。礼人は幸せだな」と感じた。
NTTが昨年2月に当時の5年生47人にとったアンケートでは、89%が「タブレット端末や電子黒板を使うことで、勉強が楽しくなった」と回答。94%が「電子機器を使って学習したいと思う/少し思う」と答えている。
NTTグループの支援を受けた実験は13年度で終わる。だが、関川村は、14年度以降も電子機器を増やし、ICT化を進めていく方針だ。=おわり(高見沢恵理)
■電子黒板・タブレット端末、県内でも利用拡大
教育現場のデジタル化が急速に進んでいる。政府は2013年に決めた「日本再興戦略」で、19年までに児童・生徒に1人1台の情報端末を導入する方針を示した。
新潟市を拠点にデジタル教科書の活用を進めている「日本デジタル教科書学会」によると、県内でも電子黒板やタブレット端末を利用した授業は広まっている。
上越教育大学付属中では、全校生徒に1人1台ずつタブレットが配布され、総務省の「フューチャースクール推進事業」や文部科学省の「学びのイノベーション事業」に指定されている。新潟大学教育学部付属新潟小学校でも計80台のタブレットが各学年の授業で使われている。