おなかの赤ちゃんがダウン症などの染色体異常かどうかが分かる新しい出生前診断の指針が日本産科婦人科学会から公表された。4月から一部の病院で始められる。
妊婦に負担がかからず簡単に調べられる利点がある半面、人工妊娠中絶が増え、命の選別につながってしまうとの反対意見も強い。指針を厳守し、慎重に進めてほしい。
指針では、対象者を高齢出産と胎児に染色体異常の可能性がある妊婦に絞った。晩婚化が進み、高齢で子供を産む妊婦は増えている。こうした女性ほど、ダウン症など遺伝子異常を持つ子供を産む確率は大きくなる。
新型出生前診断の精度はかなり高く、従来の妊婦の腹部から羊水を採取する検査に比べて危険度も小さい。
診断は一般診療でなく、臨床研究として慎重に実施される。妊婦や家族には、専門的立場でのカウンセリング(相談)も用意する。検査結果にショックを受けて必要以上に深く悩んだり、よく考えないまま人工中絶を決断したりしてしまうことへの対応だ。
遺伝子に詳しい産科医と、小児科医の常勤も求めた。しかも施設は産科学会など多くの学会を束ねる日本医学会の下に新設した機関で審査して決められる。
これだけ慎重に、しかも医学界を挙げて取り組んだのは、「命の選別」という重い問題が避けられないからだ。さらに将来、血液による遺伝子検査で他のさまざまな異常の診断が可能となれば、社会的影響も大きい。
検査を受けるに際しては、妊婦や家族も診断の特徴や問題点をできるだけ理解しておいてほしい。厚生労働省も初めて研究班を設置するが、臨床研究で出てきた問題点をひとつひとつ解決していく必要がある。
診断や治療技術の進歩は、技術の観点のみを重視しすぎると大きな過ちや悲劇を生み出すリスクをはらんでいる。技術の進歩が人を排除したり、厳しい偏見にさらしたりする事態を拡大させることだけは避けねばならない。
さまざまなハンディを抱える人たちが、ともに暮らしていける社会をめざすべきだ。母子への支援も広げたい。今回の議論を機に、社会全体の意識や仕組みを整えていくのも、技術の進歩とともに重要なことである。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130313/bdy13031303240001-n1.htm