◇清潔過ぎない環境、大切 花粉症、ビフィズス菌BB536で症状改善
花粉症に悩む人にとって、憂鬱な季節がやってきた。そもそも花粉症などのアレルギー疾患はなぜ増えるのか。日赤和歌山医療センターの元耳鼻咽喉(いんこう)科部長で、花粉症と腸内細菌の関係に詳しいNPO日本健康増進支援機構の榎本雅夫(ただお)理事長に対策などを聞いた。
◇生活環境四つの要因
榎本さんらは昨年5月、日本アレルギー学会で興味深い疫学調査を発表した。和歌山県内で健診を受けた0〜3歳の乳幼児約6500人を調べたところ、アトピー性皮膚炎約13%▽ぜんそく2%▽アレルギー性鼻炎0・4%▽アレルギー性結膜炎0・3%−−などの疾患が見つかった。こうした疾患をもつ子供の家族や生活環境を調べると、(1)アレルギー疾患をもつ家族がいる(2)ペットを飼っていない(3)ヨーグルトなど乳酸菌製品の摂取が少ない(4)男児−−の四つの要因が浮かび上がった。
アレルギー疾患をもつ子供が増えている要因の一つに「衛生仮説」がある。まわりの環境が清潔になり過ぎて、免疫を調整する力が衰えているとする説だ。家で動物などを飼っていれば、小さいときからペットの細菌など異物に触れる機会が増える。アレルギーになった後はペットの飼育は避けた方がよいが、今回の調査ではペットのいない家庭の子供の方がアレルギー疾患が多かった。
この調査だけで確かな因果関係を導き出すのは難しいが、榎本さんは「清潔過ぎる環境はアレルギーの疾患に関係している可能性があるのでは」と話す。最近は砂遊びやどろんこ遊びをする子供が減っている。子供をあまりにもきれいな環境だけで遊ばせるのはよくないようだ。
英国の研究では、2歳までに抗生物質を取った乳幼児の方が、取ったことのない乳幼児に比べ、アレルギー疾患の頻度が高いという報告がある。抗生物質を取り過ぎると有益な腸内細菌が減り、腸内細菌のバランスが崩れる。「幼いうちに正常な免疫機能を作っておくことが大切だ」と指摘する榎本さんは「抗生物質の取り過ぎがよくないのはもちろんだが、家庭内で抗菌グッズを安易に使う風潮にも疑問を感じる」と語る。
◇鼻づまり改善
花粉症はいまや国民病。国民の4人に1人はスギ花粉症と言われる。花粉症患者が増えた背景には、スギの植林拡大による花粉の飛散量の増加、大気汚染などが指摘されている。治療の基本は症状を抑える抗ヒスタミン薬や噴霧用ステロイド薬だが、症状の軽減や予防に、腸内細菌の一種「ビフィズス菌」の有効性を示すデータがある。
04年のスギ花粉の飛散時期(1〜4月)、榎本さんらは花粉症の男女40人を二つに分け、一方にはビフィズス菌BB536を加えたヨーグルトを、もう一方には普通のヨーグルトを約3カ月間、食べ続けてもらい、花粉症の症状に差が出るかを調べた。
その結果、BB536菌を摂取した方が鼻づまり、鼻水、鼻や目のかゆみ、のどの痛みなどの自覚症状が改善される傾向が見られた。血液も調べたところ、白血球の一つの好酸球の増加が抑えられ、スギ花粉のたんぱく質と結びつき症状を引き起こすIgE抗体の生成も抑制されていた。
では、どういうメカニズムで症状を抑えるのか。アレルギーは、免疫機能を担うヘルパーT細胞1型(Th1)とヘルパーT細胞2型(Th2)のバランスが崩れると発症するといわれる。花粉症の症状が出ているときは、Th2が増え、免疫反応が過剰になっている状態だ。腸は免疫細胞が多く集まっている大切な器官。BB536菌を摂取すると、Th1が活性化しTh2を減らすため、症状を軽くするのではと考えられている。
ビフィズス菌の働きについて、榎本さんらはアトピー性皮膚炎などとの関連も研究している。5年前から、和歌山県内の出産予定の妊婦とその乳児を対象に、ビフィズス菌混合粉末を摂取する群と摂取しない群に分けて追跡調査しているが、昨年、生後10カ月と1歳半に達した160人の調査では、摂取した方が湿疹とアトピー性皮膚炎になっている割合が低かった。研究は続いており、今後は子供たちの成人後、花粉症の予防にも効果があるかどうかを調べる。
榎本さんは「花粉症の治療費や欠勤などによる経済的損失は大きい。ビフィズス菌などの微生物や食品の摂取で医療費が節減されるかどうかも調べたい」と話す。
http://mainichi.jp/feature/news/20130216mog00m100003000c.html