「いじめや体罰などを受けた子供の自殺は社会やマスコミの関心が高く、第三者委員会などで調査されるケースも増えているが、原因が分かりにくい自殺についても同様に詳しい調査が必要だ」
平成12年9月に埼玉県新座市の中学2年だった次男、陵平さん=当時(13)=を亡くした大貫隆志さん(56)は訴える。
陵平さんは、学校であめを食べたことを教員から注意された翌日、飛び降り自殺した。大貫さんは学校側に原因究明を求めたが、担任と面会できたのは約1カ月後。学校側はほとんど調査せず、話し合いも3回で打ち切られたという。
文部科学省の「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」の主査を務める筑波大の高橋祥友(よしとも)教授(59)は「子供の自殺が起きると、いじめがあったかなかったかだけに傾注するのは日本独特の風潮」と指摘。「学校や社会は死からしか学べないことは何かという姿勢で、すべてのケースの原因を究明した上で自殺予防の教育を普及させていくことが不可欠だ」と強調する。
◆国挙げ取り組み
高橋教授によると、欧米では自殺予防教育が盛んに行われており、国を挙げた取り組みの結果、自殺率が大幅に減少する成果を出している国もあるという。
人口10万人当たりの自殺者数(自殺率)が30前後と世界的に高かったフィンランドでは世界保健機関(WHO)から提言を受けたことなどを機に、1980年代から本格的な自殺対策をスタートさせた。自殺が起きると、専門家チームを派遣し、遺族の同意を得て自殺直前の行動を詳しく聞き取った。調査には遺族の96%が協力したという。
詳しく分析した結果、自殺者の80%が鬱病かアルコール依存症を発症していたことなどが判明。このデータを基に対策を取った。
具体的には「メディカルモデル」と「コミュニティモデル」といわれる2つの考え方。前者は自殺の背景には精神疾患が隠されているケースが多いとして、早期に発見して治療につなげるというもの。後者は健康な人へのアプローチで、悩みを抱えたときに助けを求められないことが多いため、適切な援助を呼びかけるという考え。2つのモデルの組み合わせにより、同国では15年間で自殺率を30%減少させることに成功したという。
ただ同国でも、若者に関しては、いまだに高水準が続いている。WHOのデータによると、15~24歳の自殺率は17・8(2009年)。日本は15・2(同)で、主要8カ国(G8)ではロシアの25・8(06年)に次いで高い。
◆相談相手は仲間
若者の自殺率が日本より30%程度低い米国では、児童・生徒向けの自殺予防教育が多くの州の学校で行われている。その背景には「子供が自殺を考えるほど追いつめられたときに相談する相手は、圧倒的に同世代の仲間が多いことから、相談された際にどう対応すべきかを教育するという考え方」(高橋教授)がある。
対処方法として強調するのは「早期の問題認識」と「適切な援助希求」の2点。具体的には(1)問題に早く気づく(2)誠実な態度で相手に関わる(3)秘密にしないで信頼できる大人に相談する-の3点という。
多くの州では、こうした自殺予防教育を担当する教員らへの訓練プログラムが整備されているほか、学校での自殺予防教育の内容について、保護者や地域の精神科医療機関などにも周知徹底するよう配慮されている州もあるという。
欧米に比べ、日本では、子供の自殺対策への取り組みは進んでいない。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/education/snk20130221507.html