入院中の子どもたちに、遊びや笑いを届けるホスピタル・クラウン(道化師)の活動が少しずつ全国に広がっている。退屈で我慢することの多い闘病生活。少しでも楽しい気持ちになってもらおうというものだ。
■ピエロ訪問で闘う意欲
「ハァーイ、こんちは! また来たよ。何やってんの? 風船でなんか作ってあげよっか。何がいい?」
「ピカチュウ!」
「えーっ、難しいじゃん」
カラフルな帽子とつなぎの服に身を包み、トレードマークの赤い鼻。安城更生病院(愛知県安城市)の小児病棟に、ホスピタル・クラウンがやってきた。入院中の子どもたちには顔見知りも多く、ベッドサイドを回るとすぐ気軽な会話が始まる。
「ピエロさん、来た!」。お気に入りのぬいぐるみを連れて駆け寄ってきたのは、名古屋市の笹井千菜(ちな)ちゃん(3)。母親の友加(ゆか)さん(38)は「この2年で何度か入院していますが、ピエロさんが来るのは本当に喜んでいて、楽しみにしてるんですよ」と笑顔を見せた。
クラウンとは英語で道化師のこと。日本では一般にピエロとも呼ばれ、サーカスやイベントを盛り上げる存在として知られている。そのクラウンが、病院の小児病棟を訪問し、一緒に遊んだり、楽しいショーをしたりする活動をしている。
同病院は2年ほど前から、NPO法人「日本ホスピタル・クラウン協会」(名古屋市)から月2回の訪問を受けている。やってくるのは、テルちゃん、はず、カノン。風船などの小道具を巧みに使い、子どもたちへ陽気にちょっかいを出しながら、職員も巻き込んで、病棟の雰囲気を一気に楽しげにしてしまう。
「コミュニケーションが巧みで、ふだん私たち職員には見せない笑顔を子どもたちから引き出してくれます」と、看護係長の高橋佐智子さん(40)。小児病棟では、日頃から、子どもを喜ばせる工夫はしているが、医療従事者は注射など子どものいやがる処置もしなければならない。高橋さんは「医療の場から少し離れたような場所を作ってくれる存在で、ありがたいです」と話す。
ホスピタル・クラウンは、原則、3~5人ほどのグループで1施設を定期的に訪問。病気の子どもが相手だけに、病院職員と綿密に打ち合わせし、症状やその日の様子をよく把握したうえで臨む。衣装は毎回洗濯し、床に落とした小道具は使わないなど、衛生管理にも十分に注意を払っているという。
同病院小児科部長の宮島雄二さん(54)は「楽しい時間を作ってもらって、殺風景な入院生活が明るくなれば、病気と闘う意欲が出てくる。特に、何か月も入院している子どもには大切なことです」と、その効用を解説してくれた。
道化師はそもそも脇役であり、目の前の主役をもり立てる存在。同協会によると、病院でも、子どもたちが「主体は自分自身」と感じられるようリードし、刺激のない入院生活の中でも、自主性を引き出すことを意識しているという。
同協会理事長の大棟(おおむね)耕介さん(43)は「闘病中は、子どもが子どもらしさを失っている面があると思う。クラウンが外の空気を届けることで、日常生活には普通にある笑いや楽しみ、子どもらしさを取り戻してほしい」と話している。(高梨ゆき子)
■ホスピタル・クラウン
クラウン(道化師)が病院でパフォーマンスを行う活動。プロのクラウンである大棟(おおむね)耕介さんらが2004年に名古屋市内の病院で活動を始め、今では日本ホスピタル・クラウン協会のクラウン46人が全国54病院を定期訪問している。
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