規制されていた医薬品のインターネット販売をめぐり、21日、大きな動きがあった。処方箋なしで買える大衆薬のネット販売を規制する省令の違法性が争われた訴訟が国側の敗訴で確定する見通しとなり、風邪薬などの大衆薬のネット販売が再開される可能性が出てきた。現在は「対面販売」が原則となっている大衆薬だが、実際には消費者に必要な説明が行われていないなど、規制の「形骸化」も指摘される。消費者の利便性と安全をどう両立させていくのか。課題は多い。
現在、薬のネット販売は平成21年6月施行の薬事法改正に伴う省令で規制されている。規制対象は、効果は強いが副作用のリスクが高い薬も含まれる「1類」と、まれに重い健康被害が起きる可能性がある風邪薬などの「2類」だ。
これらの薬は対面販売が原則で、1類の薬は薬剤師、2類の薬は薬剤師か登録販売者がいる店舗でしか購入できない。「医薬品には一定のリスクがあり、それを分かった上で使うことが重要」(日本薬剤師会)だからだ。同会は「大切なのは、消費者の安全を確保すること。ネットでそれをどう担保できるかは課題」と指摘する。
◆対面「詳細説明なし」4割
しかし、こうした規制はすでに形骸化しているという指摘もある。
厚生労働省は21日、医薬品の販売制度を消費者の立場から調査する「一般用医薬品販売制度定着状況調査」の23年度の結果を公表した。1類薬を販売する際は、「薬剤師が文書を使って、使用に必要な情報を説明しなければならない」と薬事法で決められているが、調査では「文書を使って詳しい説明を受けた」のは55・2%にとどまっていた。約4割は「文書を渡されたが詳しい説明はなかった」「口頭のみの説明だった」と答えた。
また、登録販売者をめぐっても11月、大手スーパー西友が受験資格となる実務経験が足りない従業員約300人に虚偽の実務経験証明書を発行し、不正に受験させたことが発覚した。ネット販売を規制する根拠となった「対面で薬の情報を正しく説明する」制度自体が揺らいでいるといえる。
◆「正しい情報伝達」が重要
一方、ネット販売大手の「ヤフー」や「楽天」などは、「高齢者や妊婦、薬局の営業時間に働いていたり、人目が気になる商品の購入者などは店舗での購入が難しい」と主張。販売再開を目指して署名活動や意見書などを提出してきた。米国やオーストラリアなどでは、薬のネット販売はすでに解禁されている。
ネットビジネスに詳しい慶応義塾大学の国領(こくりょう)二郎教授(経営学)は「形式的に対面販売が良いというのは偏見だ。大事なのは対面でもネットでも、正しく情報を伝えられるかどうかだ」と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20121222089.html