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揺れる田園と町工場…TPP“開国”の是非どうなる

ブランド米・コシヒカリの生産地、新潟市南区味方(あじかた)。稲刈りを終えた広大な田園地帯の師走は冷風が吹きすさぶ。「自分が作るコメは世界に通用するのか、試してみたかった」。農業生産法人「新潟玉木農園」を営む玉木修さん(33)の言葉に力がこもる。

玉木さんは25歳で台湾に渡り、日本米の販路を築いた。当初は現地商品より価格が4倍ほど高い日本産米は見向きもされなかった。現地のバイヤーを説得し百貨店などに並べる機会を得た。品質の高さは徐々に富裕層らの話題を呼んだ。

今では海外の販売は全体の約3割を占める。台湾の農家と契約し、現地生産にも乗り出した。

「世界はめまぐるしく変化しているのに、日本の農業は変わろうとしてこなかった。このままでは置いていかれる」

衆院選の争点の一つである環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)には「賛成とも反対とも言えない」と話すが、海外で切り開いたビジネスモデルは強みになる。「TPPを味方につけることもできる」。たとえ変化を求められても歩みを止めるつもりはない。

■農家「もたない」

新潟県魚沼市で農業を営む関隆さん(61)は、足腰の強い農業を目指して農地拡大を進めてきた。約34ヘクタールの大規模農地でコシヒカリや野菜を作るが、TPPには反対の立場だ。

「TPPで関税が撤廃され、安いコメが入ってくれば、稲作農家はもたない。日本の農業は衰退する」

農家の高齢化、後継者不足は深刻で不安に拍車がかかる。

玉木さんや関さんは衆院選で、「農業の未来」について候補者の口から聞きたいと思っている。

各党ともTPPを論点に掲げ「反対」「条件付き賛成」などの公約が入り乱れているが、「結局、日本の農業をどうしていきたいのか、肝心なことが伝わってこない」。米どころの選挙区でさえ、TPPを争点に語る候補者を目にすることもなく、物足りなさを感じている。

■将来見据え議論を

農林水産省の試算(平成22年)では、TPP参加で仮に関税が完全に撤廃された場合、国産米の約9割が価格が安い外国産米に市場を奪われるとしている。残るとされる約1割の高級米(新潟コシヒカリなど)の平均価格も1キロ当たり288円から177円に下がる見通しも示された。農業や関連産業で約340万人もの就業機会が失われるとの予測もある。

一方で、経済産業省の試算では、TPPなどの枠組みに参加しない場合、自動車・電気電子・機械産業の3業種で将来的に10兆円超の損失を出す可能性を指摘。雇用も81万2千人減少するという。

TPPの受け止め方は産業によって大きく違う。製造業では、海外企業との競争条件を考慮し、TPP参加は不可欠との意見が主流だ。

「ガシャン、ガシャン」

新潟県三条市の野水金型製作所の工場に鈍い金属音が響きわたる。自動車メーカーなどから受注した金型品を製造しているが、同社を経営する野水孝志さん(62)は「多くの製造業者が受注減にあえいでいる」と訴える。

急激な円高や国内の電気料金の値上げなどを受け、企業各社は続々と生産拠点を海外に移している。それは下請けの受注減につながり、この工場周辺も影響を受けているという。多いときで1千軒近くの金型関連業者が工場や店を連ねたが、ここ数年は倒産が相次ぎ、今では出店数が最盛期の半分以下になった。

相手国の関税が撤廃されれば元請けの輸出が伸び、下請けの受注も増えると想定する。「TPPは日本のものづくりを考える上で避けて通れない。政治家にはしっかりと将来を見据えた議論をしてもらいたい」。野水さんも「製造業の未来」を候補者の口から聞きたいと思っている。

【用語解説】関税

安い外国産商品が流入し自国産商品が売れなくなることを防ぐため、輸入品に税をかけて価格差を可能な限り抑えることができる。自国産の競争力を間接的に支援し、国内産業を保護、育成するのが目的だ。日本の関税率は、コメ778%、バター360%、小麦252%などとなっている。TPPは原則としてあらゆる分野の関税を撤廃し、アジア太平洋地域で自由貿易圏をつくることを目標としている。

■担当記者の目 問われる農業の次世代戦略

TPP参加に対する農家の反発はおおむね激しい。安い外国産との競争にさらされる危機感は強く、取材した農家の多くが「誰も買ってくれなくなる」と不安を口にした。

一方で「TPP参加は、いずれ避けては通れない」と冷静に受け止める農家もあった。若い世代は販路開拓に意欲的な人が多く、農地の集約化を進めることで収益を上げる構造を生み出そうとしている。宮城大の大泉一貫副学長(農業経済学)は日本のコメは高い品質を武器に「世界で十分戦える」とする。海外への販路拡大や現地生産などの動きからは“攻めの農業”の息吹も感じる。

TPPをめぐっては、その賛否だけがクローズアップされがちだ。しかし、次世代の担い手育成を含め、日本の農業の潜在力を引き出す戦略をどう描くかが今、問われていると実感した。

http://news.goo.ne.jp/article/sankei/region/snk20121206505.html

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