年を重ねるごとに、最先端の技術や話題が分からなくなるし、興味もなくなる―。本当に、そうか。直感的に操作する電子端末「iPad」なら、新時代の風を体感できる「プラスの介護」が実現する。【島田昇】
アップルやグーグルなど多数のIT(情報技術)企業が輩出したITベンチャーの本場、米カリフォルニア州シリコンバレー。8月の1か月間、日本の優秀な学生たちが、あるコンセプトでアプリケーションソフトの開発を競っている。開発コンセプトは、アップルのタブレット型パソコン「iPad」で動く「認知症予防アプリ」だ。
■認知症でも楽しめるアプリ
仕掛けたのは、日本の老舗ネット企業「インターリンク」。1995年からネット接続サービスを屋台骨とする一方、社会貢献活動にも力を入れている。2010年には「シルバー向け無料iPad教室」を社会貢献活動として実施。その経験を踏まえ、今回の「シリコンバレーインターンシップ」のテーマは「認知症予防アプリ」に決まった。
スマートフォン(高機能携帯電話)の直感的な操作をより大きな画面で実現するiPadについて、同社は発売当初から高齢者に向いていると考えていた。ITに強い同社にとって、iPadが発売された10年の社会貢献活動は、これしかないと確信した。
幅広く高齢者を対象にしたシルバー向け無料iPad教室は、医療・介護の現場としては札幌太田病院で初めて行われた。講師を務めた木村達男は、精神科の専門的治療を行うストレスケア病棟で、若干の緊張を伴って講義した当時をこう振り返る。
「やり始めると、すぐに驚きの声や笑い声が聞こえてきた。2、3分前のことを忘れてしまう認知症の方でもできるように、繰り返しチャレンジできる楽しいアプリを選ぶように気を付けた」
■直感的な操作と自由なアプリ
アプリの選定に携わった同社の新規事業担当の高橋茉生は、参加者の反応を見て、毎回、使うアプリを入れ替え、最適なアプリを模索した。例えば、ピアノなどの楽器のアプリなどは、分かりやすく、とても直感的に操作できる。ただ、参加者全員で演奏し始めると、うるさく感じて自分の演奏が聞こえなくなり、途中で投げ出してしまう高齢者もいることが分かった。
直感的に操作できるだけでなく、アプリの入れ替えが簡単に、自由にできるため、回を重ねるごとに高齢者が好む内容のiPadに進化し続けていく。直感的に操作できる分かりやすさと自由度の高いアプリの組み合わせが、高齢者や要介護者が敬遠しがちだったITの世界の扉を開きつつある。
好評を受け、今年で2回目の開催となるシルバー向け無料iPad教室に臨み、木村と高橋は次のように述べる。
「今回は自社開発の認知症予防アプリも加わるので、また初めての気持ちで、その場の空気を感じながらやっていきたい。毎回、一期一会を大切にしたい」(木村)
「前回は発売後、間もなかったので、今回はより発展した高齢者向けアプリを使っていきたい。フェイスタイム(テレビ電話機能のアプリ)で遠方のお孫さんなどと話せれば、日々の生活がより明るくなるのではないか」(高橋)
教室に参加した高齢者たちの評判は上々だが、ほとんどの高齢者にとって、ITは依然として不可解で、敷居が高く、自分とは関係のない遠い存在なのかもしれない。人によっては、分からないことだらけで、不愉快とさえ感じることもあるだろう。それでも、「情報で人を支えるための技術」というITの本質を突いた製品・サービスが提案され続ければ、ITは高齢者の心身の壁を越え、「なくてはならないもの」として生活に溶け込み、より豊かな生活を支え続ける。=敬称略=
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-37778.html