ダウン症の少年が大学に現役合格し、4月から地域文化を専攻して大好きな歴史を学ぶ。他の受験生と同じ条件の入試でつかんだ春。「将来は歴史塾を開いて、日本史の面白さを伝えたい」と夢は膨らむ。
少年は山口市に住むクラーク記念国際高校3年、安光皓生(こうせい)さん(18)。英語、国語、社会は5段階評価の5。梅光学院大文学部(山口県下関市)に、面接30分と小論文のAO入試で合格した。
ダウン症と診断されたとき、父義文さん(56)と母和代さん(56)は「この子の自立のためには何でもやろう」と決めた。生後1カ月ではり、2カ月で音楽セラピーを試し、民間療育機関で発達指導を受けた。1歳半から始めた読み聞かせでは、寝る前に絵本を20冊読みたがり、30冊になると和代さんの声がかれたという。
両親は療育法を探すうち、米国発の脳障害児の訓練プログラム「ドーマン法」を知る。競馬の福永祐一騎手の父で、落馬した福永洋一元騎手が実践した。視覚、聴覚、触覚に刺激を与えて乳児の発達過程を追体験させ、脳の機能を引き出すものだ。
3歳で始めた訓練では腹ばい、雲梯(うんてい)、水泳など厳しいメニューが課される。四つんばいではいはいする訓練を嫌がり、課題の1日1600メートルを400メートルこなすのがやっとだった。言葉や知識をカードで教えるプログラムははかどった。
順調な発達が認められ6歳の時に、米国のドーマン法の研究所内にある学校に招かれた。母子で渡米し9カ月間、英語で英文学や数学などを学び、自転車とランニングのバイアスロンに取り組んだ。障害児だからと特別視されることはなく、スタッフは「偏見のない社会で暮らして自信になったのでは」と見る。7歳で訓練は終了した。
北九州市の私立小を経て、小学3年から公立小の普通学級で過ごした。算数は苦手だったが、好きな歴史分野は大人の本を無数に読んだ。
のびのび勉強していたが公立中1年の時、孤立した。和代さんが「自分のことは自分でやらせたい」と申し出たところ、担任が級友の手助けまで制止したためだ。見かねた級友女子数人が「皓生くんが笑わなくなった」と卒業した小学校に訴え出た。小学校長と6年時の担任がかけ合い、中2でおおらかな担任に変わって落ち着いた。
「クラスの子に嫌われてない、とすごくうれしかった。あの子たちの行動がなかったら今はなかった」と和代さんは振り返る。
徳川家康や武田信玄が好きという皓生さんは歴史研究家を志している。「私たちは歴史の子孫。先祖がどう考えたか伝え、多くの人に日本史を好きになってほしい」と話す。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120325ddm013040017000c.html