食中毒菌「カンピロバクター」による母子感染で、新生児が髄膜炎を発症したとみられる例が報告されている。妊婦が生レバーを食べていたケースが目立つ。肉などを食べる場合、十分な加熱調理が必要だ。
関東地方に住む女性(29)は妊娠30週(8カ月)ごろ、飲食店で生レバーを食べ、翌日に下痢の症状が出た。その6週間後、不正出血があり、産婦人科医院を受診。胎児の心拍を示すモニターに異常がみられ緊急帝王切開になった。生まれた男児は呼吸状態が悪く、すぐ群馬県渋川市の県立小児医療センターに搬送された。
検査の結果、男児は髄膜炎と診断され、血液や髄液からは「カンピロバクター・フェタス」が見つかった。複数の抗菌薬の投与で菌は消えたが、脳性まひなどの障害が残った。
同センター新生児科の丸山憲一部長によると、カンピロバクター・フェタスによる新生児髄膜炎は1962年に海外で報告され、国内でも過去約20年で23例が報告されている。うち12例では母親が妊娠中に生レバーなどの生肉を食べていた。丸山部長は「大人は胃腸炎程度で済んでも、菌が血液に入って胎児に感染すると脳に重い障害を残すことがある」と警告する。
妊娠中は鉄不足による貧血を起こしやすく、鉄分を多く含むレバーの摂取が勧められる。だが丸山部長は「調理法も含めた栄養指導が重要」とする。
厚生労働省の統計では、カンピロバクターによる食中毒は、国内の食中毒の中で最も多い。鶏や牛、豚が持つ菌で、生や加熱不足の鶏肉や牛レバーが主な原因食品だ。
カンピロバクターには多くの種類があり、食中毒の原因のほとんどは「カンピロバクター・ジェジュニ」だ。フェタスによる食中毒報告は少ないが、まれに髄膜炎や敗血症を起こすことがある。
東京都健康安全研究センターの甲斐明美・微生物部長は「少量でも感染するため制御しにくい菌だが、加熱で死滅する」と強調。予防するには、生肉などの中心部を75度以上で1分間以上加熱(色が変わることが目安)▽2次汚染防止のため、生肉を触った手はよく洗い、まな板や調理器具も洗浄、殺菌――することが必要だ。
焼き肉チェーン店の集団食中毒事件を受け、厚労省は昨年10月、ユッケなど牛肉を生食で提供する際の新基準を施行した。生の牛レバーも提供を禁止するか専門家部会で検討中だ。
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◇髄膜炎
主に細菌感染によるものと、ウイルスによるものに分けられる。細菌性の髄膜炎は細菌が脳を包む髄膜に入り込んで炎症を起こし、命に関わることもある。子どもに多く年間1000人がかかると推定される。新生児ではB群連鎖球菌や大腸菌が原因となることが多いが、乳幼児ではインフルエンザ菌b型(ヒブ)と肺炎球菌によるものが9割を占める。ヒブと肺炎球菌には予防のワクチンがある。
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