「おれはつよいぞ!パイナップル」と、突然風呂上がりの娘が吠え出した。
娘は自分のことを「俺」とは言わない。
調べてみると、どうやらテレビのヒーローもののセリフのようであった。「パイナップル」は今でも意味がわからない。
ヒーローもののテレビを見ない娘だが、その変化の裏には一人の男の存在があった。
おそらく、娘にとって初めてのボーイフレンドの名は「リッキー」。
少しだけ娘よりお兄さんの、豆腐屋の一人息子である。
娘がしゃべるようになってから、毎日といってもいいほど「大きくなったら誰のお嫁さんになるの?」と聞いてきた。
すると娘は笑顔で「とーたん(お父さん)」と答えてくれた。
父親としては、ささやかな幸せを感じる瞬間だった。
しかし、最近では「とーたん」と答えることはほとんど無くなり、代わりに「リッキー」と答えることが多くなった。
私は二歳の娘の父親でありながら、結婚が決まった娘の父親のような気分なのである。
それだけではない。
先日リッキーは、娘に会うなり「おれのゆめ!」と言ったそうだ。その場に私がいたら、巨人の星ばりに「結婚は認めん!」とちゃぶ台をひっくり返していたであろう。
娘が産まれた時に友人は「娘は永遠の片思い」と名言を残したが、今ではその気持ちがよくわかる。
そんな若い二人が遊ぶ時には、二人で仲良くパンツを脱いで「ちんちんおどり」と言って踊りだすそうだ。
娘よ。交際は認めるからそれだけは止めてくれないか。お前は女の子なのだから。