◆新薬も登場 我慢しないで
いつまでたっても治まらない足腰や肩、首などの痛み。「病院に行くほどでは…」と我慢してしまう人も多いのでは。長く続く体の痛みは、神経の異常が原因で起こる場合がある。最近は症状を抑える新しい治療薬なども登場し、大幅な改善がみられる患者もいる。あきらめずに早く専門医の診断を受けることが大切だ。
体の痛みの正体とは何か。長く続く痛み(疼痛)の種類をまず知っておこう。
慶応義塾大学医学部の中村雅也准教授(整形外科)によると、大きく3つに分かれる。
一番分かりやすいのは「侵害受容性疼痛」。原因であるケガや病気が治れば消えてしまう痛みだ。「心因性疼痛」は、体の症状(痛み)を引き起こす心の不安などを取り除くことが治療の第一歩。厄介なのは「神経障害性疼痛」だ。見た目やレントゲンの画像では異常がなく、心身ともに原因がはっきりしない場合も多い。
神経障害性疼痛は、神経が傷つき、痛みの感覚が過敏になって起こるとされる。中村准教授は「がん、糖尿病、帯状疱疹(ほうしん)などの病気や外傷、手術をきっかけに、神経が何らかのダメージを受け続けた後に発症します。病気や傷は治ったのに神経細胞が興奮したまま元に戻らず、あたかも痛みを記憶したかのような状態に陥るのです」と話す。
従来の治療では、炎症に伴う痛みを抑える一般的な抗炎症薬が主に使われていたが、神経の痛みは患部が炎症を起こすわけではなく、効果も薄かった。さらにモルヒネなどの鎮痛薬もほとんど効かず、有効な治療法は少なかった。
最近は、神経の痛みに効く新薬が開発され、治療の主流になっているという。
◆神経細胞の鎮痛作用
その一つが平成22年に発売された疼痛治療用の飲み薬「プレガバリン」(商品名・リリカ)。痛みを伝える物質が過剰に放出されるのを抑え、神経細胞の興奮状態を和らげる新しい鎮痛作用がある。帯状疱疹後の神経痛や糖尿病の神経障害、三叉(さんさ)神経痛などの「末梢性神経障害性疼痛」と呼ばれる痛みに広く効果を発揮するのが特徴。ただし、めまいや意識消失の副作用が報告されており、飲んでいる間は車の運転などをしないよう注意が必要だ。
神経障害性疼痛の治療法としては、痛みを起こしている神経の働きを麻酔注射などで抑える「神経ブロック」も行われてきた。薬や神経ブロックが効かない場合は、小さな装置を体内に埋め込んで脊髄に弱い電気刺激を与える「脊髄刺激療法」なども選択肢の一つ。薬物療法に比べると患者の体への負担は大きくなるが、難治例でも痛みが軽くなることが多い。
◆まず原因究明を
中村准教授によると、過去に海外で報告された慢性腰痛の実態調査の結果などから罹患(りかん)者を推計した場合、国内には神経障害性疼痛の症状が疑われる人は少なくとも600万人いるという。
「痛みは体が発する危険信号。重篤な疾患が潜んでいる可能性もあり、まず原因をしっかり究明しなければなりません。これを怠って痛みを薬で取ることにより、かえって病態を悪化させてしまう可能性もあり、注意が必要です。原因がはっきりしない痛みに関しては、いきなり痛みをゼロにしようとせず、うまくコントロールしながらQOL(生活の質)を保つことが肝要です」と中村准教授は話している。
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