■2500g未満で産まれる低体重の赤ちゃんが増えている
一昔前、まだ栄養が充分ではなかった時代は、妊娠すると「2人分食べなさい」と言われてどんどん栄養を摂っていましたが、現代では、妊婦健診に行くたびに体重をチェックし、「体重増加は8kgまで」と厳しく制限する産院も多いようです。妊娠高血圧症候群(以前は妊娠中毒症と呼ばれていました)、赤ちゃんが大きくなりすぎる巨大児出産などを予防する上で、食べすぎはもちろん良くありませんが、妊娠前に標準の体重だった方の場合は、9~12kgの範囲での体重増加であれば、神経質にならなくてもよいかもしれません。
筆者の5回の出産経験では、毎回12kgほど体重は増えましたが安産でしたし、母乳育児でまた元の体重に戻りました。体重が増えすぎた場合は産院で食事療法の指導があると思いますが、筆者が心配なのは、反対に「妊娠中も産後も太りたくない」と、お腹の赤ちゃんのための栄養を考えずに食べる量を過度に減らしてしまうことです。
厚生労働省の調べによると、生まれたときの体重が2500g未満の低出生体重児が増えています。その割合は、1980年度の10.4%に比べて2003年度には18.3%と2倍近くになっているとのこと。産科医らはその原因の一つとして、妊娠中にもダイエットを続けている人がいることを指摘しています。
■過度のダイエットで赤ちゃんがメタボに?
内臓脂肪蓄積により、さまざまな病気が引き起こされる「メタボリック・シンドローム」が「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」といった「生活習慣病」と関連して注目されていますが、こうした一連の症状のリスクは中年になってから出てくると理解されている方は多いと思います。しかし、お腹の中の赤ちゃん時代にメタボの原因が作られていると聞けば、驚かれるでしょうか。
「胎児期に低栄養状態であることが生活習慣病のリスクになる」。これはイギリスの疫学者デビッド・バーカー氏による「バーカー説」と呼ばれるものです。バーカー氏が行った疫学的調査によると、2500g未満の低出生体重児で生まれた赤ちゃんは、成人になって心筋梗塞・糖尿病・高血圧などのいわゆる「生活習慣病」にかかる人たちが多かったというのが分かったのです。
小さく生まれた赤ちゃんは、少ない栄養でも生きていける「倹約型」の遺伝子をもって生まれてくるため、栄養豊富な現代生活の中では、メタボのリスクがより高くなってしまうのです。妊娠中の過剰なダイエットは、お腹の赤ちゃんの一生の健康を損ねてしまうということを忘れないでください。
■摂取エネルギーは足りていても栄養失調?
現代は、意図的にダイエットをしていなくても、栄養不足に陥る人も多いようです。飽食の時代に栄養不足などありえないと思われるかもしれません。確かにエネルギー摂取量だけを捉えれば、足りないというより過剰気味。ところがその中身をみてみると、朝はいわゆるアメリカンブレックファースト、お昼に菓子パンとジュース、夜はインスタント食品……という人も少なくありません。
糖質や脂質は摂り過ぎなのに、体を作ったり機能させたりするために大切なタンパク質やビタミン・ミネラルが摂れていないのです。栄養失調でもやせているわけではなく、逆にエネルギー過剰で太りやすくなったりします。これがいわゆる現代型の栄養失調です。
子どもたちがスナック菓子ばかり食べて、きちんとした食事をしない「現代型栄養失調」が問題視されています。炭水化物をでんぷんから摂取しないで、スナック菓子や甘い飲料などのジャンク・フードで摂取すると、血糖値が一時的に上昇し、その反応でインスリンが大量分泌されて、低血糖状態が起きると言われています。
低血糖は疲労感や冷えの原因になりますし、イライラ、キレやすいという不安定な精神状態を招きます。心穏やかに過ごすためには、急激な血糖値の上昇を避けるという視点も大切です。
■葉酸、鉄分などもできるだけ食事から摂る
では、妊娠中にどのような食事を摂れば良いのでしょうか。基本的には、ご飯、野菜類、大豆・小魚を中心とした和食がおすすめです。妊娠中に摂取を勧められる栄養素は、葉酸、鉄分、亜鉛などですが、バランスを考えた和食メニューであれば、無理なく摂れるはずです。葉酸は、野菜をしっかり食べれば大丈夫ですが、目安として「ブロッコリーを1日1株!」と覚えておきましょう。
鉄分や亜鉛などのミネラルは、小魚、納豆、小松菜、ナッツ、玄米、雑穀などにも多く含まれています。主食は、白米のように精製されたものではなく、玄米のほうが本来のミネラルも摂れるはず。ただし、急に玄米に代えると消化吸収がよくありませんので、まずは玄米粥から始めてみるとよいでしょう。
産院では「妊娠中にはメチル水銀の濃度が高い魚を避けるように」との指導があるでしょう。食物連鎖を通じて水銀濃度が高いキンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロなどは、週に1回80g程度に留めるといった工夫が必要です。しかし、魚類は良質なたんぱく質や、脳の発達や血流の促進に効果があるといわれるEPA、DHAなどの高度不飽和脂肪酸、カルシウムやビタミンDの摂取源ですので、丸ごと食べられる小魚などはむしろ積極的に摂ったほうがよいと思います。
食事の面では、マクロビオテック(玄米菜食)や、体を温める食べ物、冷やす食べ物という視点を持つ陰陽の考え方を取り入れている助産師も多くいます。
食事は栄養のバランスだけではなく、「楽しく食べる」ということが大切です。「これを摂らなくちゃ、あれが足りない」と神経質になるより、家族と一緒に、笑顔でありがたくいただくことが一番大事。それがお腹の赤ちゃんにとってもうれしいことだと思います。
文・大葉 ナナコ(All About 出産準備)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140209-00000004-nallabout-hlth