相談内容
業者から電話があり、金地金の購入の勧誘を受けた。その際、過去に別の投資で多額の被害を受けていたことを伝えると、業者の担当者が「当社の弁護士なら被害の全額を取り戻せますよ」と言った。その後、業者からパンフレットが送られてきたので中をみると、公安委員会の許可番号が書かれており、意味はよく分からなかったが、信用できる会社だと思った。
担当者と電話で話すうちに、25年間の分割前払いで金地金2キロを約900万円で購入する契約をすることになり、前払い金の一部として約200万円を業者の口座に振り込んだ。残額は、月々約3万を支払うことになった。後日、業者から契約書などの書面が郵送されてきたが、記入せずにそのままにしていた。
その後、家族に相談したところ契約を止められたので、担当者に「契約をやめさせてほしい」と伝えた。しかし、いろいろな理由をつけて「儲(もう)けが出るまで待ってほしい」などと言われ、何度もやり取りをしているがいまだに返金されず、被害を回復するという約束も果たされない。
被害回復をしてくれるというので担当者に言われるままにお金を支払ったが、金地金で儲けるつもりはまったくない。支払ったお金を返してほしい。
(70歳代 女性 無職)
結果概要
国民生活センター(以下、当センター)では、契約書などの書面を相談者から取り寄せて契約内容や経緯等の確認をしたうえで、相談者には、契約に至る経緯や相談者が求めている内容(支払ったお金を返してほしいこと)を記載した書面を業者に送付するようアドバイスした。そのうえで、当センターから業者に連絡をして、今回の契約について確認した。業者からは「相談者とは契約書をまだ交わしていないこともあり、契約は成立していないと考えているが、会社の資金繰りが困難で一括返金はできない」との説明があった。
当センターからは、相談者からの再三の返金要求に業者は応じておらず、これ以上譲歩して返金の時期を遅らせることはできないので、再度一括返金を検討してほしいと伝えた。
何度か同じようなやり取りを続けたところ、業者が2回の分割で返金する案を提示してきたため、決めた期限までに相談者の口座に振り込むという内容で合意した。その後、合意書の内容のとおりに返金があったことが確認できたため、相談を終了することとした。
問題点
(1)契約内容の一般的な特徴と問題点
金地金を25年間以上などの長期分割の前払いで購入する契約については、2012年11月に当センターが注意喚起をした*ものであり、一般的に次のような特徴と問題点がある。
(ア)金地金の現物引き渡しは、長期間の分割前払いが完了した後である
この契約は、金地金の現物購入契約でありながら、購入代金の支払いは25年以上などの長期間に及ぶ分割前払いであり、金地金の現物はその購入代金の全額を支払った後に引き渡されるものとなっている。
契約金額には代金のほかに高額な手数料(契約金額の10%などといったケースがある)が含まれ、契約後に頭金を支払った後、残金は月払いとなっている。支払い回数は、例えば25年間の分割払いであれば300回となる。
同種事例では、60歳以上の高齢者に25年以上にわたる長期間の分割前払いによる金地金の取引を契約させるケースが非常に多く、特に70歳代、80歳代で契約した場合には、金地金の現物の受け取りが100歳を超えることもある。
このようなケースでは、多くが電話勧誘販売や訪問販売であることから特定商取引法に定める適合性に反する勧誘に当たるおそれがある。加えて、高齢者に対して高額な長期前払い契約を締結させている場合で、適合性に反する程度が著しい場合は、公序良俗に反する契約として無効を主張できる可能性もあると考えられる。
(イ)中途解約時は金地金価格の差額で清算し、さらに手数料がかかることも…
契約書では分割前払いが完了する前に中途解約することができるとなっているが、中途解約する場合の既払金の清算に関しては、解約時までに支払った金額に、契約した金地金の全体数量に解約時と契約時の金の価格の差額を掛け合わせた金額を加え(値下がりした場合にはマイナス)、この金額からさらに高額な解約手数料を差し引き、返金額が決まるケースもある。この場合、契約時の手数料に加えて、中途解約時にも手数料が必要となっているため、返金額に納得できないというトラブルも多い。
勧誘時に「金が値上がりしたときに中途解約すればいい」といったセールストークもみられるが、実際に金が値上りした際に中途解約を申し出ても、解約手数料を差し引かれると既払金を大きく下回る額しか返金されなかったケースもある。
(2)本件の問題点
本件では、過去にも投資被害にあっていた高齢者に対して、被害回復ができるなどと言って信用させ、25年間分割前払いでの金地金購入(約900万円)を契約させているものであったが、契約書はまだ取り交わされておらず、業者自らも「契約は成立していない」という見解であった。しかし、既払金は分割で返金するという主張であったため、当センターにおける交渉は、契約の内容自体や販売方法の問題点よりも、既払金の返金の分割回数などが主な論点となった。
本件と同種のトラブルに関する相談は、最近でも全国の消費生活センターに寄せられている。相談対応等に当たっては販売方法や契約内容に問題がないか注意する必要がある。
- *:国民生活センターホームページ「受け取りは105歳になってから!?金地金の分割前払い取引のトラブルが増加-訪問販売や電話による現物積立まがいの勧誘にご注意-」(2012年11月1日 国民生活センター公表)
ここに掲載する相談事例は、当時の法令や社会状況に基づき、一つの参考例として掲載するものです。
同じような商品・サービスに関するトラブルであっても、個々の契約等の状況や問題発生の時期などが異なれば、解決内容も違ってきます。
http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/201507_1.html