専門家が注意喚起
近年、野生の鳥や獣を食材として利用する「ジビエ」に関心が集まっている。都市部でもジビエを扱う飲食店が増えて人気を呼んでいるが、感染症のリスクがあることはあまり知られていない。ジビエの普及振興に努めるNPO法人「日本ジビエ振興協議会」は5月7日、ジビエと人獣共通感染症(ズーノーシス)に関するセミナーを開催し、集まった狩猟、解体処理、食品流通、飲食などジビエ関連業者らに感染症予防を訴えた。
ジビエからの感染防ぐ3カ条
講師を務めた日本大学生物資源科学部(神奈川県藤沢市)の壁谷英則准教授(獣医学)は「人獣共通感染症はまれなものと思われがちだが、人間に感染する1,709種類の病原体の49%、156種類の新興感染症のうち73%が人獣共通であり、非常に身近なものであることを知ってほしい」と指摘。ジビエの中でも人気のシカやイノシシの肉を食べることで感染する病原体として、サルモネラや腸管出血性大腸菌、E型肝炎ウイルスなどを挙げ、国内外の野生動物の保菌率状況などを解説した。
こうした感染症を防ぐポイントとして、(1)十分な加熱調理、(2)腸内容の汚染防止など食肉処理工程における衛生管理の徹底、(3)食肉処理従事者の充分な感染症対策―の3つを紹介した。
また、シカの肉を生で食べる風習が残っている地方もあるが、これはきわめて危険で、生命に関わることもある。生食のリスクを十分理解し、勧められることがあっても決して食べず、加熱調理されている場合でも、火が十分に通っているか注意するよう求めた。
野生動物が増えることで増加する感染症も
また、日本で見られる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ツツガムシ病、日本紅斑熱といった感染症の原因微生物は、野生動物に寄生するマダニなどが媒介する。壁谷准教授によると、シカやイノシシの数が増えると人家周辺に出没する頻度も増加し、媒介生物(ベクター)に触れる危険性が上がることにもつながる可能性があるという。
「厚生労働省の取りまとめでは、SFTSは今年4月現在、国内で110例が報告されており、うち32例が死亡している。国立感染症研究所などの調査では、これまで西日本に限られてきたが、SFTSウイルスを保有するダニや、感染歴のある(抗体を持つ)シカは、中部地方や東北地方などでも確認されている」(壁谷准教授)
マダニなどによるベクター感染を防ぐには、山に入る際に適切な服(長袖、長ズボン)や靴(長靴)などを着用する必要がある。また、シカ、イノシシが人家周辺に出没しないよう、適正な個体数管理をすることでリスクを軽減できる可能性もあると考えられている。(土屋季之)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=119259