ここ数年で、様々な国の人が日本を訪れるようになりました。日本と外国の1番の違いは宗教かもしれません。お盆と正月を祝いながら、クリスマスを楽しんでいる日本人にとっては、宗教というのはなじみがあまりありませんが、外国には熱心に宗教を信仰している人がたくさんいます。これから、ますます外国から日本にやってくる人が増える中で、日本の文化を理解してもらうだけでなく、相手の文化を理解することも大切です。そこで、今回はいろいろな宗教の基礎知識を紹介したいと思います。東京オリンピックに向けて今後も外国からのお客さんが増えると予想されます。今のうちにしっかり宗教について知識を身につけておきましょう!
■ キリスト教
◎ 1:概要
全世界に20億人以上の信者を擁する、最大の宗教です。イエスはキリスト(救世主)であるとされ、神の子であるイエスによって人類の罪が許されたという一連の話が記された「新約聖書」が信仰の対象となっています。一方で、「旧約聖書」を教典とするユダヤ教ではイエスは救世主ではなく預言者とされています。
◎ 2:信仰されている国
・アメリカ
・南米
・イギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国
・ロシア
・アジア
キリスト教は多くの国と地域で信仰されており、その数は世界人口の約1/3ほどにものぼります。同じキリスト教でも様々な宗派に分かれています。アメリカではプロテスタントが主流で、ヨーロッパではカトリックが多く、ロシアでは正教会が大半と、地域によって信仰している宗派が異なります。
◎ 3:戒律やタブー
キリスト教が全世界的に広まった背景として、食事などに厳しい制限がないということが1つの要因として考えられています。例えば、「汝殺すなかれ」や「汝隣人を愛せ」などの教えはありますが、具体的な戒律として、なにかを禁じられるということは基本的にありません。キリスト教徒には菜食主義の人もいますが、キリスト教の戒律だからというわけではないようです。性欲に任せた性行為は好ましくないものと考えられており、出産のための性行為が人間らしいと考えられています。また中絶に関しては、神からの授かり物である命を奪ってしまうということから厳しい見解を持っており、禁じられていることが多いです。13という数字が忌み嫌われる由来には諸説ありますが、イエスの最後の晩餐で、13番目の席に座ったユダによってイエスが裏切られたことに由来しているようです。ちなみにアメリカで多くの人が属しているプロテスタントでは、「天職」という概念が発達し、労働によって神に奉仕することができるという考えが、資本主義経済を成長させたという説があります。
◎ 4:宗派によっての違い
・カトリック
キリスト教の伝統的な宗派です。教会には神父や修道女がおり、生涯を通して結婚をしません。お祈り後に十字を切ったり、洗礼名があるのもカトリックの特徴です。ローマ法王を頂点に組織されています。
・プロテスタント
16世紀の宗教改革の際にカトリックから分派した宗派です。カトリックと違いプロテスタントとしての組織はなく、プロテスタントの中の宗派ごとに組織があります。プロテスタントの教会には牧師がおり、結婚することができます。洗礼名や十字を切るといったことはしません。
・正教会
聖職者のことを神品と呼びます。婚姻の禁止などをはじめとして、戒律が一切ないのが特徴です。聖書は神の言葉として重んじており、神品の教導から離れた解釈をしないように促します。正教会は、ロシア・ギリシア・日本などヨーロッパから見て東方面で多く信仰されているため、東方教会とも言われます。
■ イスラム教
◎ 1:概要
預言者ムハンマドを開祖とする世界的宗教です。コーランを経典としています。アッラーを信仰しており、イスラム教に帰依する人をムスリムといいます。一日に5回メッカに向かって礼拝をささげることや、食べられる食事などについて、戒律で厳しく定められています。教義は、神・天使・啓典・使途・来世・定命の六信と信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼の五行からなっています。また、偶像崇拝や女性の肌の露出など、様々な禁止事項があります。
◎ 2:信仰されている国
・アラブ諸国
・イラン
・トルコ
・パキスタン
・アフガニスタン
・旧ソ連中央アジア各国
・インドネシア
・マレーシア
中東を中心に広がっている宗教です。ヨーロッパの移民層や中国のウィグル自治区などでもイスラム教は盛んです。ただし、インドはイスラム教ではなくヒンドゥー教が盛んな地域です。
◎ 3:戒律やタブー
【食事】
イスラム教では、食べてよいものと食べてはいけないものを法令によって定めています。食べていいものを「ハラル」と呼び、細かく定めています。酒と豚肉を口にしてはいけないことは有名ですが、ハラル(食べてもよい)食材である鶏肉であっても、飼育方法や屠殺方法によってはハラルとならないことがあります。野菜類や魚介類は、毒のあるものなどを除いて基本的にハラルですが、国などの地域によって規定が微妙に異なっていることがあります。
【礼拝】
ムスリムは一日に5回、メッカに向かって礼拝(サラート)を行います。礼拝する場所は特に決まりはなく、時間などに余裕があれば礼拝堂(モスク)まで足を運ぶようです。また、礼拝にあたって、礼拝するところと礼拝者が清潔ではなければなりません。なので、礼拝に移る前に手や口を清める手水(ウドゥー)が行われます。
礼拝の時間
・明け方から日の出まで
・正午から昼過ぎまで
・昼過ぎから日没まで
・日没直後
・就寝前
日の出、日の入り、正午には礼拝をしてはいけません。また、旅行中などのやむをえない場合は、いくつかをまとめて行うことができます。
【断食】
ラマダーンと呼ばれる断食月は、イスラム暦の9月の新月を確認したその日から始まり、翌月の新月まで続きます。その間は、黎明(日の出の1時間20分ほど前)から日没まで飲食物(タバコを含む)をまったく口にしてはいけません。
【女性の服装】
ムスリムの女性は肌を露出することを禁じられています。なので、ヒジャブという布で首元などの肌を隠しています。最近は、カラフルなヒジャブが増えてきており、戒律を守りながらおしゃれを楽しむ人が増えてきているようです。
◎4:注意
「イスラム国」は、イラクとシリアのイスラム国(ISIS)という過激派武装組織を前身とする国家的組織です。イスラム教を基本原理としており、イスラム教のための国をつくろうとしています。独裁的な統治体制をしいており、いまだ多くの国から承認を得ていません。構成員はイスラム教徒ですが、イスラム教のすべてではありません。
■ ユダヤ教
◎ 1:概要
唯一神ヤハウェを神として信仰しています。選民思想やメシア信仰などの特色をもつ、ユダヤ人の民族宗教です。タナハと呼ばれる書物を聖典としており、これはキリスト教の旧約聖書にあたります。ただし、キリスト教とは書物の配列が異なっています。
◎ 2:信仰されている国
・イスラエル
・アメリカ
ユダヤ教徒が多数を占める国は、イスラエルしかありませんが、ユダヤ教徒は世界中に点在しています。アメリカはイスラエルについでユダヤ人の人口が多く、この二つの国に住むユダヤ人は全ユダヤ人の81%を占めています。
◎ 3:戒律やタブー
【食事】
ユダヤ教ではカシュルートという律法によって食べてよいものと食べてはいけないものが定められています。食べてよい食べ物は一般的にコシュールと呼ばれています。コシュール(食べてもよい)であるためには、動物なら草食動物で割れたひづめと反芻することが条件です。また、魚介類ならひれと鱗があることが条件です。つまり、ライオンなどの肉食動物はもちろん、豚は草食動物ですが、反芻しない動物なので食べることができません。魚介類では、エビ、貝類、タコなどは食べることができません。さらに、肉と乳製品を一緒に食べるのも戒律に違反するため、一方を食べたら数時間の間隔をあけなければもう一方を口にすることができません。ワインは古代において偶像崇拝によく用いられたため、厳格なユダヤ教徒は異教徒が触れたワインを口にすることはありません。ワイン以外の果実酒やウィスキーなどは問題ありません。
【安息日】
日曜日から始まる7日間を一週間として、最終日にあたる土曜日が安息日になります。ユダヤ教徒にとって安息日はとても重要な意味を持ち、日本人にとってのお盆や正月に近い感覚のようです。安息日に行ってはいけない仕事のことをメラハーといいます。タルムードという聖典の中で、39種類のメラハーが禁じられており、中には薬や車の使用なども禁じているものがありますが、解釈や優先順位によって例外を設けることがあるようです。
■ ヒンドゥー教
◎ 1:概要
インドやネパールで多数派を占める民族宗教で、世界で3番目に人口の多い宗教です。ヒンドゥー教の特徴はバラモン教の聖典から引き継がれたカースト制度や、土着の神々を吸収しながら形成されてきた多神教があげられます。業(カルマ)や輪廻(サンサーラ)などの独自の概念を持っています。また、ヒンドゥー教では河川崇拝が行われており、特にガンジス川はシヴァ神の身体を伝って流れ出た聖水とされています。
◎ 2:信仰されている国
・インド
・ネパール
・スリランカ
・インドネシア
ネパールは世界で唯一ヒンドゥー教を国教と定めている国です。また、インドは仏教発祥の地ですが、国民のほとんどがヒンドゥー教徒です。ヒンドゥー教徒はインドだけで約8億人の信者がおり、世界最大です。
◎ 3:戒律やタブー
【食事】
ヒンドゥー教では先祖の魂が動物の形に生まれ変わっているかもしれないという考えのもと、動物を食べたり殺したりすることを忌避しています。なので、肉全般、特に牛・豚、また魚介類や卵を食べずに野菜などを中心に食べる人が多いです。ただし、五葷(ごくん:ニンニク、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)と呼ばれる野菜類に関しては食べることが避けられます。肉食をする人もいますが、牛は神聖な動物として崇拝されており、食べる場合は鶏肉、羊肉、ヤギ肉などが一般的です。魚介類全般を忌避している場合は、鰹節の出汁なども対象になっています。ただし、食べる食材はカースト制度や社会的地位に影響されている部分もあり、異なるカーストにある人と食事することを良しとしない場合もあります。
【その他の風習】
頭は神の宿るところなので触ってはいけません。なので、例え相手が子どもだとしても頭をなでてはいけません。また、左手は不浄なもの(排泄物など)を触るためのものなので、握手などをする場合も右手を使います。足は不浄とされているので、靴や足が触れたら謝る風習があります。
■ 仏教
◎ 1:概要
日本人にもっともなじみ深い仏教ですが、厳格な仏教徒である日本人は少ないと思います。仏教はキリスト教、イスラム教と並んで世界三大仏教に数えられています。一般には仏陀の説いた教え、また自ら仏陀になるための教えであるとされています。仏教の世界観では人の一生は苦であり、永遠に続く輪廻から抜け出す(解脱)ことなどが目的とされています。また、因果論などの様々な教えがあります。
◎ 2:信仰する国
・タイ
・カンボジア
・ベトナム
・ビルマ
・スリランカ
・中国
・韓国
・タイ
・カンボジア
仏教を国教としているのはタイとカンボジアだけです。日本は中国についで世界で二番目に仏教徒が多い国です。ちなみに、仏教発祥国であるインドでは、弾圧を受けた歴史などを背景に、現在、仏教徒は1%程度にとどまっているようです。
◎ 3:戒律やタブー
【食事】
殺生や、生き物を傷つけることを慎むという傾向があります。よって特に厳格な僧侶の場合は肉食を避けることが多いです。菜食が中心ですが、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)は臭いが強く、修行の妨げになるため、食べることを禁じられています。また、僧侶などの厳格な仏教徒にとっては、食事も一つの修養として捉えられているため、食事作法が存在します。
■ お互いに気持ちのいい付き合いをするために
宗教というのは、生活を律する役割や日々の道標になっていたりします。なので、宗教が生活の土台になっている地域もあります。お祈りの習慣に馴染みのない日本人だと、いきなりイスラム教徒の礼拝に遭遇すると面食らってしまうかもしれませんが、だからといって避けていてはお互いを理解することはできません。文化も言葉も違いますが、だからこそ会話でしっかりコミュニケーションをとっていきたいもの。いろいろな宗教が交じり合っている中で生活している私たちだからこそ、宗教に関係なく多くの人と仲良くしていきたいですね。
(著&編集:nanapi編集部)
http://news.goo.ne.jp/article/nanapi/life/nanapi-7809.html