障害年金は、国民年金(障害基礎年金)しかない人でも1級で年間96万円、2級で77万円、厚生年金加入者だけに設けられている3級でも最低57万円を受け取れます。状態が変わらなければ毎年、給付が続くのですから、経済的メリットの大きい制度です。
しかし、受給するための要件がけっこう厳格に定められており、4点のハードルをクリアしないといけません。一般的には「3要件」と呼ばれますが、3要件のすべてに関係する初診日の証明を独立させ、4点として説明します。
1 初診日の証明
障害の原因となった病気やけがで最初に医療機関にかかった日が「初診日」になります(発症時期ではない)。最初の医療機関で診断がつかなかったり、誤診されたりしていても、その日が初診日です。健康診断で異常を指摘された場合は、健診を受けた日が初診日になります。
初診日は、原則として「日」まで特定する必要があります。医療機関に頼んで「受診状況等証明書」を発行してもらいます。
問題は、初診の時期が古い場合です。大きな病院はカルテ(診療録)を長い年月にわたって保存していますが、医師法によるカルテの保存義務は5年。中小の医療機関ではカルテが廃棄されていることもあるし、医療機関自体がなくなっていることもあるからです。医療機関から廃棄したと言われても、正式にカルテ開示請求をすると見つかったケースもあるので、そこまで試みましょう。
それでも無理な場合、過去の診断書、身体障害者手帳、交通事故証明、労災事故証明、事業所の健康診断記録、医療情報サマリー、救急搬送記録、紹介状、診察券、領収書、次の医療機関の記録など、他の資料で初診日を証明できればよいのですが、それもないと請求をあきらめざるをえないことがあります(保険料の納付状況によっては「月」「年」までの特定でも認められる)。だから、できるだけ早く障害年金のための作業にかかるべきなのです。
糖尿病による網膜症・腎障害・足切断など、因果関係のあるとされる場合は、障害が生じた時ではなく、最初の病気やけがによる受診時が初診日になります。
生まれつきの知的障害は、後で説明するように、初診日の証明なしでも請求できます。
2 初診日に、その年金制度の加入者だった(例外あり)
「加入要件」と呼ばれます。初診日に加入していなければ、公的年金制度による障害年金は、基本的には、もらえません(労災保険による年金は別)。
だから、「体調が悪いけど、退職して時間ができてから医者にかかろう」というのは大間違い。勤めている時に受診しないと、障害厚生年金をもらえずに大損するかもしれません。
加入状況は年金手帳で一応わかりますが、念のため、基礎年金番号をもとに確認しましょう。基礎年金番号は、国民年金、厚生年金、共済組合といった、すべての公的年金制度に共通で、一人に一つの番号です。ネットでも照会は可能です。
日本年金機構の年金事務所または年金相談センターに出向いても、照会してもらえます。国民年金だけとわかっているなら、市町村の年金担当課でもかまいません。
<20歳前の障害>
国民年金の加入対象は20歳以上~60歳未満で国内に住所がある人です(2012年7月9日以降は、日本に3か月を超えて合法的に在留する外国人を含む)。
初診日が20歳より前だった場合は、どうなるのでしょうか。国民年金に未加入で、保険料を納めていないわけですが、20歳になった後に請求して、1級・2級の障害にあてはまれば、障害基礎年金が支給されます。障害者が無年金になるのを防ぐための福祉的な支給です(本人の所得が一定額より多い場合は半額または全額の支給停止)。
先天性の知的障害は、生まれた日が初診日とされます。一方、発達障害も生まれつきですが、こちらもなぜか、実際に診療を受けた初診日の証明が求められます(初診が20歳より後なら通常の保険加入に基づく障害年金になる)。その他の先天性障害・難病や幼少時の病気・けがも、実際の初診日の証明が必要です。子どもの時から年数がたって、書類による初診日の証明が難しいことも多いので、親族以外の複数の人の証言で20歳前の受診が認定されることもあります。
一方、初診日に20歳未満でも、すでに勤めていて厚生年金に加入していれば、成人と同様に障害厚生年金が支給されます(1級・2級は障害基礎年金もセット)。
<60歳以上の障害>
初診日が60歳以上65歳未満のときは、国民年金の加入者とみなされます。70歳未満で国民年金に任意加入している時も加入要件を満たし、障害基礎年金の請求は可能です。ただし、老齢基礎年金の受給権を得ていないことと、初診日に国内に住所があることが受給の条件です。
また、厚生年金保険は、適用事業所の常用労働者なら、70歳未満まで強制加入なので、初診日が70歳より前なら、通常と同様に障害年金を請求できます。もし老齢基礎年金の受給権を得ている場合は、上乗せ部分の障害厚生年金だけを請求できます。
3 保険料の未納期間が一定以下である
「納付要件」と呼ばれます。これが問われるのは国民年金の部分ですが、クリアしないと障害厚生年金ももらえません。2種類のパターンのどちらかを満たせば、大丈夫です。
<初診の前々月までの加入期間のうち、保険料の未納期間が3分の1未満>
逆に言うと、保険料の納付期間と免除期間が合わせて3分の2以上あればよいのです。納付期間には、厚生年金や共済の加入期間が含まれます。免除期間には、低所得などによる法定免除・申請免除のほか、学生納付特例、若年者猶予(30歳未満)の期間も含まれます(ただし1991年3月までの学生期間は任意加入だったので、分母からも分子からも除外して計算する)。
<65歳未満で、初診日の前々月までの直前1年間に未納がない>
最初のパターンをクリアできないときの救済措置として設けられている方式です。納付期間・免除期間の考え方は、先ほどと同じです。
どちらの納付要件を用いる場合でも、「初診日の前日」にクリアしている必要があります。つまり、病気やけがで受診した後に、あわてて過去の保険料を納めても、障害年金はもらえません。現在の制度上は、後の祭りです。だから、保険料を未納にしていると、まずいのです。
4 初診日の1年6か月後、またはその前の症状固定日に、障害等級にあてはまる状態だった
「障害状態要件」と呼ばれます。一般的には、初診日の1年6か月後が「障害認定日」になり、その時点で障害等級にあてはまるかどうかが判定されます。体の一部を失ったとき、体内に一定の機器を入れたときは、症状固定が明らかなので、その時点。人工透析は受け始めて3か月を過ぎると、障害認定日になります。
どちらも障害認定日から3か月以内の状態について、医師の診断書が必要です。認定されるような書き方をしてもらうことが、重要なポイントです。
障害年金の受給権は、障害認定日から有効です。厚生年金保険の加入者なら、健康保険による傷病手当金の支給が最長1年6か月なので、その後を障害年金につなげるわけです。請求から支給まで3か月以上かかるので、先に障害年金を請求しましょう。
<遡及そきゅう請求>
請求は、5年前の分までさかのぼってできます。障害認定日から1年を過ぎて請求する場合は、現在の状態の診断書も必要です。障害認定日より5年以上遅れると、古い分から毎月、時効になっていくので、早めに手続きをしましょう。
<事後重症の請求>
当初は症状が軽く、後から障害等級にあてはまる状態になった場合も請求できます。重症になった時点から3か月以内の診断書を添えます。この場合も初診日の証明は必要です。また、事後重症の場合は過去にさかのぼった請求ができず、年金の支給は請求の翌月分からになります。
<別の障害が加わって支給対象になる>
最初の障害の程度が軽く、後から別の種類の障害が加わって、両方を合わせると年金支給対象の障害等級になるときは、後発の障害(基準傷病)の初診日、障害認定日をもとに請求します。この場合も過去にさかのぼった給付は行われず、年金の支給は請求の翌月分からです。
ややこしそうなときは社労士に依頼する
障害年金を請求できるのは基本的に65歳未満です。「ひとりの年金は1種類」が原則なので、障害、老齢、遺族の複数の年金を請求できるときは、いずれかを選択します(障害基礎年金+老齢厚生年金といった組み合わせは可能)。
以上の説明は、現行法の対象になる場合(障害認定日が1986年度以降)です。それより前は適用される制度が違ってきます。
基本的なことでわからない点は、年金機構の電話相談を利用しましょう。
・年金相談ダイヤル 0570・05・1165
(050で始まる電話からは03・6700・1165)
実際の請求には「病歴・就労状況等申立書」なども必要で、手続きはやっかいです。医療機関や福祉事業所によっては、ソーシャルワーカーがやってくれますが、昔にさかのぼる請求や等級の認定が微妙と思われるときなどは、障害年金に詳しい社会保険労務士に依頼するほうが賢いでしょう。費用は、着手金が数万円または無料、交通費などは実費、成功報酬が年金の2か月分、または遡及請求で支給された総額の10%といった設定が多いようです。
年金機構の決定に不満があれば、行政不服申し立て(審査請求、再審査請求)や行政訴訟もできます。再審査請求までは社労士が代理できます。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=112737