先進国の中でも類をみない少子高齢化時代に突入した日本。30~40代という働き盛りの時期に両親の介護問題に直面する人も少なくない。都内の印刷会社に勤めていた上田仁美さん(仮名・39歳)もその1人だ。
上田さんに故郷の長崎から悲しい知らせが届いたのは、今から1年ほど前のことだった。
「お母さんが自転車で転倒して骨折したんです。明らかに状況がおかしかったので病院で調べてもらうと、パーキンソン病と診断されました。私は1人娘で、父が『自分だけでは面倒が見きれない』というので、地元に帰って働くことにしました」
社交的で面倒見もよく、友人が多かった上田さんの母。掛け持ちで複数のパートをこなすほどの働き者だったが、病魔はその言動をガラリと変えてしまった。
「飲む薬が毎月変わるのですが、中には副作用がきついものもあって、無気力になったり足のふるえが止まらなかったり……。母は料理が好きなのですが、味覚がなくなってしまったことにも落ち込んでました。そのうち、財布をなくしたり、どこからかトイレットペーパーを勝手に持ってきてしまったりと認知症のような行動が目立ち始めて。目が離せなくなってしまった」
地元に戻ってから、当初は派遣社員として事務職に就いた上田さんだったが、母の介護が原因で遅刻や早退を余儀なくされることもままあった。ある程度は覚悟していた、と語るが、想像を超えていたのは頼りになるはずの父の豹変ぶりだった。
「母の介護を巡って私と言い合いになり、ついには暴力を振るうようになりました。突き飛ばされ、拳で何度も殴られ、救急車が来たほどです。比較的大人しい性格だったのに、子供のように怒りっぽくなって……正直、父の認知症も疑っています」
結果、不安定な両親の面倒を1人で見ることになった上田さんの負担は文字通り倍増。派遣社員として働くことも困難となり、今年に入って退職した。無職となった現在、収入は両親が受給する年金のみ。貯金を切り崩してなんとか凌いでいるが、先細りは明らかだ。
上田さんはそれでも気丈に語る。
「先日、具合の良かった母が『私たちのことはいいから、東京に戻りなさい』と通帳を渡してきました。2人して泣き崩れました。どん底ですが、やれるところまでは頑張ろうって思います」
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