認知症が進むと、食べ物が認識できなかったり、うまくのみ込めなかったりするなど、食事に絡んで様々な困りごとが起きる。
そんな時、周囲が少し工夫をすれば、うまくいくことも多い。支援のコツや、食べ続けるために欠かせない口内のケアについてポイントをまとめた。
「ごっくんした?」。認知症の高齢者ら14人が暮らす札幌市白石区のグループホーム「福寿荘3」の食卓で、スタッフが優しく語りかけながら、入居者の80歳代女性の口に少しずつ木製スプーンでご飯を運んだ。
この日の主菜はメンチカツ。ただ、女性は認知症が進み、のみ込む力が弱っているため、同じ材料を丸めて焼き、野菜のあんをかけた特別メニューが用意された。ご飯も白米とモチ米を混ぜ、適度な粘り気を出している。いずれも食べやすいようにとの工夫だ。
福寿荘が目指すのは、入居者が最期まで自らの口で食べ続ける生活だ。武田純子施設長は「食事は生きる源で、見た目のおいしさも大切。何でも軟らかくすり潰すのではなく、食べ物の形を保つよう心がけています」と説明する。ごぼうなど硬い根菜でも、圧力鍋で煮込んだり、スープにしたりと手間を惜しまない。
食事中の姿勢も重要だ。のみ込む力が弱いとむせやすく、食べ物や唾液が誤って気管に入れば誤嚥ごえん性肺炎を引き起こす。スタッフは、女性の背中とイスの背もたれとの間にクッションを挟んで姿勢を崩れにくくし、自分は高さの低いイスに腰掛けた。女性の目線が斜め下を向き、自然と少し前傾姿勢になるようにして、せき込むのを防ぐ工夫だ。
認知症は、進行に伴い、見えていても目の前のものを認知できない「失認」、運動機能に問題はないのに的確な行動ができない「失行」、「記憶障害」などが起きる。それらが原因で、「テーブルに並んだおかずを食べ物と認識できない」「箸やスプーンを使えない」「食事したことをすぐに忘れる」といった症状が出る。食事支援が必要になるのはそのためだ。
ただ、認知症の進行に合わせて適切な手助けをすれば、本人の食べる力を引き出すことができる。
例えば、だしの利いたうどんなど、香りの引き立つ献立にすると、食事の始まりに気づいてもらいやすくなる。食べ始めの時だけ、利き手に箸やスプーン、もう一方の手に食器を持つようにサポートして「構え」を作れば、順調に食べ始められる人もいる。多くのおわんや皿が並ぶと、どれを選ぶか混乱する人もいる。その場合は、ご飯とおかずを弁当箱やワンプレートにまとめるといい。
認知症の人の食事支援に詳しい北海道医療大学の山田律子教授は「必要な支援は十人十色だが、その人の食事場面を毎日5分でも観察することで見えてくる」と話す。さらに、「うまく食べられないからといって介助のし過ぎは禁物。本人の意欲を奪わずに、食べる力を引き出す工夫をしてほしい」とアドバイスする。
口腔ケア虫歯・誤嚥を防止
食事支援と併せて、歯などを清潔に保つための口腔こうくうケアにも気を使いたい。認知機能の低下で、歯をうまく磨けなくなり、口内が汚れると、虫歯になりやすくなったり、誤嚥した時に雑菌が気管に入り、肺炎を引き起こしたりするからだ。
ただ、足腰の弱い高齢者は、歯医者に行くのも一苦労。その際は、歯科医が自宅に来てくれる訪問診療を頼むのも一つの手だ。応じてくれる医師の情報は、地元の保健所や歯科医師会に尋ねれば教えてくれる。かかりつけ医に相談するのもよい。
普段から、のみ込む力の衰えを防ぐことも大切だ。唇や頬の筋肉を動かすブクブクうがいや、舌を出したり引っ込めたりする運動などを習慣づけるとよい。
日本訪問歯科協会の前田実男広報担当理事は「食事ができなくなると体力が衰え、寝たきりにもつながる。年に一度は口腔検診を受けてほしい」と話している。(板垣茂良)
(2015年2月2日 読売新聞)
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