相談内容
母の預金通帳を確認したところ、150万円が見知らぬ業者に振り込まれていた。このため、契約書などをもとに業者に確認したところ、母がその業者の運営するファンドに150万円の出資契約をしていることが分かった。母は認知症の診断と介護認定を受けており、成年後見の手続きを進めている最中であることなどを業者に説明し解約を申し出たが、即答できないため検討したいという回答だった。
後日、母の通帳を確認したところ、業者に解約を申し出たあと、さらに100万円を振り込んでいることが分かった。2度目の振り込みについて業者に説明を求めたところ、1度目の契約とは別契約の一部の振り込みであるとのことだった。
業者と話し合いをした際に認知症で十分な判断ができないことを伝え、1度目の契約について解約を申し出ていたにもかかわらず、2度目の契約について何ら説明がなく、さらに2度目の契約金の一部を振り込ませたことについて業者に説明を求めたが、「個人情報なので説明しなかった」など、納得できる回答はなく、2件とも解約を拒否された。業者は母が認知症であることを聞いていたにもかかわらず、その数日後にさらに100万円を振り込ませている点がどうしても納得できない。いずれの契約も解約し、全額返金してほしい。
(契約当事者:女性 無職)
結果概要
相談を受け付けた国民生活センター(以下、当センター)において、契約書、重要事項説明書などを確認したところ、業者はプロ向けファンドの届出を行っており、今回の契約は、プロ向けファンドへの出資契約であることが分かった。しかし、契約当事者の手元にある資料などからは、ファンドの運営実態を把握することができず、出資をした対象が何であるのか分からなかった。
これらを踏まえ、業者に勧誘方法、契約者の判断能力等に対する認識などを確認したところ[1]電話帳や名簿などをもとに電話勧誘を行う際、「投資の勧誘」であることを告げずに訪問しているが問題はない[2]いずれの契約も本人の意思で契約しており問題はない[3]契約者には十分な判断能力があり問題があるとは考えていない、よって返金には応じないと説明された。
業者の説明に対して当センターが問題とするのは[1]プロ向けファンドの制度趣旨を理解しているかの疑義(1.不特定多数の者に対する電話勧誘、2.同一ファンド内において、複数の匿名組合の組成を予定しているとも読める契約条項の文言)[2]銀行が負わないと判断するリスクを一般投資家に負わせることへの問題[3]家族から契約当事者が認知症である旨が伝えられた後の対応については、医師による認知症の診断を確認するなど客観的な判断材料をもとに判断する必要があったのではないか、などである。
上記の問題点を業者に伝え、2件の契約の対応について再考を促し、交渉を重ねたところ、業者から申込手数料と管理報酬を差し引いた金額の約9割を分割で返金するという案が提示されたことを相談者に伝えた。しかし、相談者およびその家族の意向があくまで全額の返金を求め、訴訟を検討するとのことであったため、当センターでの相談処理は終了とした。
問題点
プロ向けファンドは、基本的にプロの投資家を相手に販売・運用が行われるものとして簡素な規制となっており、一般投資家を念頭においた規制にはなっていない。また、登録制でないこともあり、行政処分(業務改善・停止命令、登録取消)の対象となっていない。しかし、制度上は49人以下であれば一般投資家にもファンドを取得させることができることから、一部の業者によって、不特定多数の一般投資家への勧誘を前提としたプロ向けファンドが組成され、高齢者を中心とする投資経験の乏しい人に対して不適切な勧誘が行われており、以下の問題点が指摘されている。
- (1)自宅への突然の訪問や電話により、投資経験が乏しく積極的に契約を望んでいない高齢者等に対してハイリスクで複雑なプロ向けファンドが販売されている。
- (2)うそや、ぎまん的な説明、不十分なリスク説明、迷惑勧誘などが行われている。
- (3)買え買え詐欺(劇場型勧誘)が行われるなど、詐欺的な業者の関与がうかがわれる。
- (4)ファンドの運営内容について、十分な情報提供がなく消費者が把握できていない。
- (5)被害回復が難しいケースが多い。
このような問題点から高齢者などを中心に、多くの消費者トラブルが生じていることを踏まえ、当センターでは、2013年12月に、[1]プロ向けファンドの制度趣旨にのっとったしくみの導入[2]不適切な勧誘を行うプロ向けファンド届出業者への厳格な対応を求めるなど行政への要望を行い*、現在、金融庁において、プロ向けファンド規制の改正に向けた議論が進められている。現行制度では、プロ向けファンドは一定条件を満たせば、簡単な届出だけで49人まで一般投資家からお金を集めることができるが、改正案では個人投資家への販売は原則として一定の金融資産を有する富裕層に限るものとするなどの案が提示されている。
参考
プロ向けファンド(適格機関投資家等特例業務)とは、集団投資スキーム(ファンド)持ち分の自己募集に関して、1人以上の適格機関投資家(証券会社や銀行等)=プロと49人以下の一般投資家=アマを相手として取得勧誘等を行う業務である。
通常、業者が集団投資スキーム(ファンド)持ち分を取り扱う場合、第二種金融商品取引業としての「登録」が必要となるが、プロ向けファンドについては“プロ向け”であることから「届出」でよい。さらに、書面交付義務や適合性の原則の適用がないなど販売勧誘規制が大幅に緩和されている。
ここに掲載する相談事例は、当時の法令や社会状況に基づき、一つの参考例として掲載するものです。
同じような商品・サービスに関するトラブルであっても、個々の契約等の状況や問題発生の時期などが異なれば、解決内容も違ってきます。
http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/201501_1.html