「モノを運ぶだけの仕事」。先輩の誘いを断れず、わずかな報酬をつかまされて大阪から東京へ。着慣れぬスーツに身を包み、向かった先は高齢者の自宅。暴走族の少年らが請け負った仕事はオレオレ詐欺の現金受け取り役の「受け子」だった-。暴走族の少年らを受け子として利用していたオレオレ詐欺グループのメンバーが一昨年から今年にかけ、大阪府警に逮捕された。オレオレ詐欺は受け子など、逮捕されるリスクの高い“現場”には未成年者らが勧誘されるケースが多い。だが近年、東京での事件摘発が相次いだたため、受け子らのなり手が枯渇気味という。今回逮捕された少年らも、大阪でスカウトされ、東京で犯行に加わっており、地方がオレオレ詐欺の人材供給源と化している現状を浮き彫りにした。
■受け子は暴走族
「東京でオレオレ詐欺をした」
きっかけは暴走族の少年の告白だった。
平成25年1月に大阪市港区の国道127号で6台のバイクに分乗し、集団暴走をしたとして、大阪府警は同年2月以降、暴走族の少年ら10人を順次逮捕した。この事件の取り調べの中で、1人の少年がオレオレ詐欺に加担していたことを自供。少年計3人がオレオレ詐欺に関与していたことが判明した。
府警は4~6月に詐欺容疑で少年3人を再逮捕すると、関連捜査で、ほかの不良グループの少年2人の関与も割り出し、6~7月、詐欺容疑で逮捕。5人はいずれも現金を受け取る役割の「受け子」だったため、府警はさらに中核へ向けて捜査を広げ、犯行現場で少年らを監視したりする「管理役」や、少年らが被害者からだまし取った現金を受け取る「現金回収役」らも逮捕し、逮捕者は芋づる式に計10人に上った。
「電車の中に会社の金が入ったかばんを忘れた。このままじゃ契約に間に合わない」。10人は、25年2月に東京都日野市の80代女性に息子を装って電話し、現金640万円をだまし取ったとされるなど、同月中に都内の高齢者計6人から計約3400万円をだまし取っていたという。
■「社会人」に変身
暴走族の少年らはもともと、暴走族OBでもある地元の先輩から「東京でモノを運んで数万円もらえる楽な仕事だ」と勧誘されていた。
先輩後輩の縦のつながりを嫌う暴走族も増えてはいるが、いまだ「先輩の言葉は絶対」との感覚を持つグループや不良少年は少なくない。
逮捕された少年らは先輩の勧誘を「命令」と受け取ったといい、調べに対し「先輩が怖くて逆らえなかった」「断ったらしばかれると思った」と明かした。
こうして誘いに応じた少年らはまず、大阪で暴走族OBの先輩から、それぞれ1万~2万円を渡された。東京への片道の交通費と1泊分の宿泊費だ。帰りの交通費は向こうでもらえるらしい。少年らは足が出ることも考え、新幹線ではなく、夜行バスに乗り込んで東京に向かい、1泊3千円程度の宿を探し出したという。
東京に着き、ホテルにチェックインすると、入念な準備が待っていた。
受け子は被害者から現金を受け取る際、「会社の上司の知人」や「弁護士の見習い」といった社会人を演じないといけない。即席で社会人になりすまして信憑(しんぴょう)性を持たせるため、茶髪を黒く染め上げ、ホテルに備え付けの整髪料を髪になでつけた。スーツは、詐欺グループの「衣装担当」からレンタル料1万円の有料で貸し出された。使い慣れない敬語も勉強し、セリフも練習した。
準備が整うと、貸与された携帯電話が鳴り、指示に従って受取場所に移動。被害者から現金を受け取ると、すぐに現金回収役に取り上げられ、そこで任務は終了。受け子の行動を監視していた管理役から帰りの交通費を渡され、帰阪するのだ。
■使い捨ての未成年
半ば強制的に受け子として雇い入れられた少年ら。だが彼らをスカウトした暴走族OBも勧誘役にすぎなかった。
このOBら勧誘役のまとめ役として、関西から受け子を派遣する窓口になっていたとみられるのが、元格闘家で自称自営業の吉田圭多容疑者(33)=詐欺容疑で再逮捕。少年らを監視していた管理役や現金回収役、連絡用携帯電話など犯行に必要な道具を貸し出す「道具屋」らも、吉田容疑者の配下だったという。
だが、吉田容疑者もグループのトップではない。グループの拠点は関東にあり、吉田容疑者が関東からの要請を受けて、少年らを受け子として派遣していたという構図だった。
危ない“現場仕事”に未成年が駆り出される-。オレオレ詐欺事件では、未成年者の摘発が目立って増加しており、昨年上半期(1~6月)に全国の警察がオレオレ詐欺を含む「振り込め詐欺」事件で摘発した未成年は137人(前年同期比23・4%増)で、21年の統計開始以降で最多となった。21年(22人)と比較すると、約6倍にまで激増しており、大半は受け子だった。
■地方が人材供給源
大阪府警によると、ここ数年、東京では詐欺グループの受け子や出し子の摘発が相次ぎ、こうした人員の現地調達が困難な状況に陥っている。
そこで目を付けられたのが「地方」。全国に点在する詐欺グループのメンバーが地方の不良少年らを集め、東京に派遣して犯行に加担させる「出張型」が増加しているといい、警視庁が昨年、受け子や出し子として摘発した少年の約6割が都外在住者だった。
大阪府警に逮捕された少年らが被害者から受け取った現金は、回収役がその8割を回収し、上役が指定したファストフード店やパチンコ店のトイレに置いていた。その後どのように金が回収、配分されるのかは解明されていない。一方、「大阪グループ」の取り分は、残りの2割だ。
受け子らには勧誘段階で1回3万~6万円の報酬が約束されていたという。だが、府警幹部は悲しい現実をこう明かす。
「まとめ役や勧誘役などが次々にピンハネし、取り分はほとんどなかったようだ。」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150120-00000626-san-soci