◇「就労機会広げたい」
全国でも珍しい発達障害がある人たちのためのパソコン学習室「湘風舎」が、藤沢で活動を始めて10年を迎えた。身に付けたスキルを基に、地方自治体や企業の特例子会社への就職に結び付けた例も多く、実績を挙げてきた。主宰する女性は力を込める。「これまで清掃員や作業員などが中心だった障害者雇用の裾野を広げていきたい」
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平日の夕刻、1937年に建てられた藤沢市藤沢の古民家の2階は“寺子屋”へと様変わりする。1こま1時間のレッスンは最大5人まで。アットホームな雰囲気の中、少人数指導を実践している。
講師を務めるのは茅ケ崎市在住の沼田恵子さん(51)。大手自動車会社のコンピューター開発部門を経て広告代理店に転職、その後フリーでホームページ作成などを請け負ってきた経歴を持つ。
昨年12月のある水曜日、この日は小学6年の男児(12)に表計算を指導。5年生のときに横浜市戸塚区から通い始め、毎週のレッスンを楽しみにしているこの男児は、沼田さんの指導でめきめきと腕を上げ、1700人が参加した同月のパソコン入力コンクール全国大会では小学生チャンピオンに輝いた。
男児の母親は「息子はこだわりが強くて、他人の指示にうまく乗れない性格。受け入れてもらえるか心配だったが、湘風舎はその人の個性に合わせて指導してくれる」。男児も「もっとパソコンのことを知りたい」と意欲を見せる。
沼田さんがパソコン指導を始めたのは2005年、発達障害の子どもを持つ知人から相談されたことがきっかけだった。当初はグループレッスンで基礎を中心に教えていたが、口コミで評判が広がっていった。
09年には資格取得を目的とした個人指導を開始。事務処理系ソフトからグラフィック、映像・動画制作、ゲームプログラミングまで教える内容は多岐にわたり、現在は小学4年生から40代の大人まで約50人が受講している。
指導マニュアルはない。それぞれの個性に合わせ、「根気強く、焦らずゆっくり、無理強いせず、怒らず褒める」ことに尽きるという。
「パソコンは発達障害児者の自立に有効なツールの一つ」と強調する沼田さんは、理由をこう説明する。「程度の差こそあれ、会話やコミュニケーションが苦手な人が多い。非対面の方が仕事に集中し、うまく自己表現できる場合もある」
11年からは、スキルを磨いた生徒に就労機会を提供しようと、ホームページ作成の受注も始めた。また、市内の社会福祉法人に働き掛け、既存の業務のうちパソコンを使ってどの部分を障害者に担ってもらうことが可能か、提案してもいる。
沼田さんは「私がやりたいことは発達障害者の能力開発」と語る。「多くの人は周囲から理解されず、理不尽な目にも遭ってきた。それでは自信をなくしてしまう。でも、『ここは得意』という分野があると自己肯定感を持って生きられるようになり、人間性の成長につながっていく」。今後も寄り添い、その手助けをしていくつもりだ。
受講料は月4回受講で9千円。
◆発達障害
脳機能の発達に関係する障害の総称。特定の物事にこだわる自閉症、自閉症に近いが言語の発達の遅れはないアスペルガー症候群、読み書きや計算が極度に苦手な学習障害(LD)などがある。他人との関係づくりやコミュニケーションが苦手な場合が多く、周囲から理解されにくい傾向にある。
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