ウォーキングなどの運動に、しりとりや簡単な計算などの頭の体操を組み合わせると、認知症の予防にも効果が期待できるという。
科学的な研究成果も発表されている。実際にはどんなやり方をするのか、注意する点は何か、調べてみた。
「1、2、3、……」。名古屋市内のコナミスポーツクラブのスタジオで10月末、70~80歳代の男女約20人が、音楽に合わせて踏み台を上り下りする運動に汗を流していた。
「次は、1拍目と4拍目で拍手します」。インストラクターが指示すると、参加者が一斉に手を打つ音が響いたが、「次は1拍目と5拍目」と別の指示が飛ぶと、音はたちまち乱れた。「リズムがどんどん変わるから、乗り切れないよ」と、参加者の川人勝さん(78)が苦笑いする。
参加者が行っているのは、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)が開発した認知症予防に向けた運動「コグニサイズ」を取り入れ、コナミが考案したエクササイズだ。加藤貴美恵さん(73)は「最近、人や物の名前が出てこなくて気になる。少しでも物忘れがなくなれば、と参加した」と話す。
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コグニサイズは有酸素運動に頭を使う課題を組み合わせたもので、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせて名付けられた。
ウォーキングなどの有酸素運動が、認知機能のうち、注意力などを改善した研究報告はこれまでにも多い。しかし、認知症で問題となる記憶力については改善が見られなかった。そこで、同センターは、歩きながら引き算やしりとりをするなど、運動と頭を使う課題の二つを組み合わせてみた。
2010年度から、「軽度認知障害(MCI)」がある高齢者100人を対象に、頭を使う運動をするグループと、健康講座を受講するだけのグループに分け、認知機能の変化を調べた。
その結果、半年後に、講座グループは認知機能が下がったのに対し、運動グループは向上したうえ、記憶力の改善が初めて確認できた。また、画像検査で、講座グループは脳の萎縮が約1%進んだのに対し、運動グループは維持したことも分かった。11年度には、対象を308人に広げて研究を重ね、同様の結果が出た。
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では、コグニサイズは実際にどうやるのだろうか。同センターの島田裕之部長は「ポイントは、二つの課題に同じくらい注意を向けながら行うこと」だという。冒頭の例は、「踏み台昇降」と「1拍目と4拍目で拍手」という課題が組み合わせられている。踏み台などの道具を使わなくても、大股で少し速く歩くだけで運動になり、その際、しりとりや引き算をするといったやり方もある。グループで行えば、楽しみながら取り組むことができる。
また、慣れてきたら、次の課題に移ることが重要だ。島田部長は「慣れてうまくなると、動きが自動化する。脳を使うことが大切なので、すいすいできる課題は意味がなく、少し難しい方がいい」と説明する。
運動量も同じで、「ややきつい」と感じるくらいがちょうどいいという。ウォーキングなら少し息が上がるくらいの速さだ。自分の目標とする心拍数を調べ、心拍計のついた腕時計などを使い、運動しながら時々、確認するといい。
注意点もある。まず、運動前には必ずストレッチをすること。急に運動するとケガにつながることもあるからだ。また、運動中は時々、水分補給をして脱水を防ぎ、痛みを感じたらすぐに休んだ方がいい。転倒にも注意し、必要なら手すりなどを使おう。島田部長は「下半身を動かすことが運動量の増加につながる。短時間でも、毎日続けることがコツ」とアドバイスする。(樋口郁子)
軽度認知障害(MCI=Mild Cognitive Impairment) 記憶力や判断力などの認知機能は低下しているが、日常生活に支障をきたす「認知症」と診断されるほどではない状態。その後、認知症に進行する人がいる一方、正常な認知機能に回復する人もいる。
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