手打ちそばの店で、《新そば打ち始めました》という張り紙が見られる季節になった。最近は、ソバの産地によって夏に収穫する「夏新」、秋の「秋新」と、2つの新そばがある。とはいえ、やはりこれから晩秋にかけてが昔ながらの旬。その楽しみ方とは-。(榊聡美)
◆料理作りに活用
今月1日、埼玉県所沢市にあるそばの名店「松郷庵 甚五郎」で、「蕎麦(そば)味会」が行われた。毎年1回開かれている新そばのお披露目で、粉のひき方、打ち方を変えた5種類のそばが振る舞われた。
参加者のひとり、フードコーディネーターの三島英雄さんは、「新そばは強い香りと、緑がかった色が特長です」と説明する。
堪能するためにはつゆではなく、まず水につけて食べてみることを勧める。
「『水そば』といって、ソバそのものの風味、食感が楽しめる。新米は水で炊いただけなのにおいしいですよね。そばも一緒です」
「甚五郎」の2代目、松村憲利(のりかず)さんは、「香り豊かな新そばは、麺だけで食べるのはもったいない」と、家庭での楽しみ方を提案する。
産地直売所や道の駅などで、地元産のそば粉を見付けたら、日々の料理作りに取り入れてみてはいかがだろう。加える水の量によって、さまざまなメニューに変身する(レシピ)。
定番の「そばがき」は、水から火にかけて練るとダマになりにくく、滑らかに仕上がる。そのまましょうゆを付けて食べるもよし、白玉の代わりにおしるこに入れるもよし。
イチ押しは、「天ぷら」や「鶏の空揚げ」の衣だ。揚げたてを口に入れると、ソバのこうばしい香りが広がる。油切れが良いので、食感がサクッと軽くなる。
「クレープ」にすると、ソバの香りと風味に加え、もっちりとした食感も楽しめる。
「そばは、粉でも麺でも『そば』と呼ぶので、麺以外には発想が膨らみにくい。でも、一素材として見て、いろいろな料理に使うと、新しいおいしさが発見できますよ」
◆山形ではお祭りも
北海道に次ぐ全国第2位のソバの作付面積を誇る山形県では、「山形まるごと新そば月間」と銘打ち、県を挙げたイベントを展開する。
収穫期に合わせて今月22日から始まり、県内に17あるそば街道を中心に、各地で順次、新そば祭りを開催。おいしいそばの条件とされる「ひきたて・打ちたて・ゆでたて」の“3たて”に、さらに「採れたて」が加わって、県内外から多くのそば好きが集まるという。
山形の代表品種「最上早生」や、県が開発したオリジナルの品種「でわかおり」、伝統的な在来種など、地域ごとに主に作付けする品種が異なるため、それらを食べ比べできるのも魅力だ。
「山形には、大きなお盆のような板に手打ちそばを盛り付けた『板そば』を振る舞う、『そば振る舞い』という食文化があります。親戚の家を訪れた気分で、家族でわいわいと新そばを味わってほしい」(同県観光交流課)
日本蕎麦協会(東京都千代田区)によると、最近はソバの栽培を早める産地が出てきて、6月から新そばが味わえるという。しかし、そば好きの間では香り、味の良さは、秋の新そばに軍配が上がる。実りの秋ならではのおいしさを、しみじみと味わってみては?
《基本のそば粉の溶き方》
※いずれもそば粉の分量は100グラム。鍋やボウルにそば粉を入れ、水を半量ずつ2回に分けて加え、泡立て器でしっかりとムラなく混ぜる
【そばがき】(水150~200ミリリットル)鍋でそば粉を水で溶いて強火にかけ、木べらでかき回しながら加熱する。固まり始めたら中火にして絶えずかき混ぜ、水気がなくなったら火から下ろしてしっかりと練る。一塊にして、食べやすい大きさにそぎ取る。作りたてはそのまま食べても。時間をおく場合は、湯の中に入れたり、おしるこに入れたりするのがお勧め
【天ぷら・鶏の空揚げ】(水200ミリリットル)そば粉を水で溶いて衣を作る。天ぷらは材料を衣にくぐらせ、油で揚げる。鶏の空揚げは、下味を付けた鶏肉にかたくり粉をまぶして衣にくぐらせ、油で揚げる
【クレープ】(水400~450ミリリットル)そば粉を水で溶いて生地を作り、フライパンやホットプレートで円形に薄く焼く。フルーツをのせたり、ジャムを塗ったりして食べる。水を豆乳に代えてもOK
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20141019522.html