年間100万個ほどが販売されている中、子供の転落事故が相次いでいることが東京都の 初調査で判明した。事故でけがをしたのは、平成21年以降で少なくとも116件。ただ、表面化しないケースも多いといい、調査結果は氷山の一角にすぎない との指摘もある。(酒井潤、中森智也)
■「私が悪い」
「抱っこひもをつけて、前抱っこで、自転車に乗っていたら、子供が周囲を見たかったようで、反り返ったら、落ちそうになった。慌てて自転車を止めた」
こう話すのは東京都杉並区に住む会社員の女性(38)。幸い5カ月の次男は無事だったが、かがんだときにも、落としそうになったことがあり、転落防止の器具を取り付けるようになった。
ちょうどリュックサックを前にかけるようにして、子供を抱く抱っこひも。両手が空くほか、抱っこに不慣れな男性でも使いやすいとあって、子育てには必須アイテムとなっている。
ただ、都の調査結果が公表されるまで、転落事故やその被害はあまり報告されなかったのが現状だった。
「親が『自分の使い方が悪い』と考えているのか、あまり連絡が寄せられない。子供を落としたということへの引け目もあるのではないか」
都の調査結果を受け、国民生活センターの原田慶さんはそう話す。
■転落以外にも
ヒヤリ、ハット。そんな事態が相次ぐ背景には、抱っこひもの便利さから、子育て中の活動が活発になるという事情もありそうだ。
東京都中央区に住む会社員の女性(36)も、「ヒヤリ、ハット」の経験者の一人だ。昨年、次男=当時(1)=を抱っこひもで抱き、長男=同(4)=を後ろの席に乗せ、電動自転車に乗っていたとき、抱っこひもの腰ベルトのサイズを調整するひもが自転車の後輪に絡まった。
「ずり落ちそうな次男を片手で抱えたら、重い電動自転車を支えきれずに傾き、転倒しそうになった」。通りがかりの男性が助けてくれたため、事なきを得たが、フェイスブックなどを通じて、育児中の知人らに報告した。
利用していた抱っこひもは、国内でも人気の海外ブランドだった。通常は腰ベルトのひもはゴムでまとめておくが、何かの拍子にほどけてしまっていたのが原因という。
「0~1歳の子はしっかり座れなかったり、適当なヘルメットがなかったりして、(チャイルドシートに)座らせられない。抱っこひものほうが、自転車から降りた後も、両手が空いて便利」
危ない行為であることは理解しつつも、この女性は幼稚園や保育園での送迎などに「自転車は必需品」だという。子供が2人いれば、下の子を抱っこひもで抱き、上の子を後ろに乗せて走るのは日常の風景だという。
■生活様式の変化
抱っこひもの安全対策について検討している東京都商品等安全対策協議会に消費者の立場から参加している「みらい子育てネット東京」の小林睦子会長は、転落事故について、「使い方と、製品そのものの2つの側面で考えていく必要がある」と話す。
小林会長は「畳文化から椅子文化に変わるなど、生活の『高さ』が変わってきた」と指摘。最近ではアスファルトの路上で、おんぶから抱っこに担ぎ変える人も おり、「事故防止には、担ぎ変えるときは腰掛けるという呼びかけだけではなく、立ったままでも安全に変えられる製品の開発が必要だ」と説明する。
また、ベビーグッズはお下がりを使うケースが多く、説明書がないことも少なくないといい、「保健センターや病院でも知識や使い方を教える必要がある」と訴える。
その上で、「使用者が声を上げなければ、問題があっても製造者に届かない。使用者には声を上げることが、製造者には現在の生活様式でも安全でおしゃれな製品の開発が求められている」と話した。
《抱っこひもは流行は山口百恵さんがきっかけ》
「抱っこひもに注目が集まったのは、昭和50年代後半に山口百恵さんが赤ちゃんを抱っこひもで抱いた写真が週刊誌に掲載されたことがきっかけ」
こう話すのは、抱っこひもの販売を手がける北極しろくま堂(静岡市)の園田正世社長だ。園田社長は東京大学大学院で「抱っことおんぶ」をテーマに研究している。
園田社長によると、そもそも日本は「おんぶ文化」だったという。抱っこひもは、40年代半ばに海外メーカー製の輸入が始まった。50年代後半に注目が集まった後、平成以降に国内メーカーから相次いで発売され、輸入品とともに定着していった。
抱っこひもからの転落事故について、園田社長は「抱っこひもの種類や使い方について正しい知識を持ってもらいたい。ユーザーに対する講習会を開くとともに、アドバイスできる人材を育てたい」と話している。
http://news.livedoor.com/article/detail/9277170/