幼稚園と保育所の機能を一体化した「認定こども園」で、認定を返上して保育所や幼稚園に戻ろうとする動きが表面化している。来年度から始まる子育て支援の新制度で、大規模な施設は補助金が減る見込みだからだ。待機児童解消の切り札として普及させようとしている政府は説明に追われ、補助制度見直しも検討する事態になっている。
「運営を続けられなくなるので、認定を返上せざるをえません」
栃木県那須塩原市の認定こども園「西那須野幼稚園」で13日に開かれた入園説明会。福本光夫園長(58)は集まった保護者約130人にこう説明した。理由は大幅減収が見込まれることだ。
政府は来年度から子ども・子育て支援新制度を始める。認定こども園の普及拡大は目玉の一つだ。定員割れが目立つ幼稚園からの移行を促し、保育所に入れない待機児童の解消を目指すのが狙いだ。新制度では補助金の仕組みが変わる。いまは幼稚園部分に国と都道府県が負担する私学助成を、保育所部分には国と自治体が認可保育所と同じ補助金を出す。これを一本化する(図)。
同園の場合、2013年度の収入は約2億9千万円。国が5月に公表した補助額案をもとに、来年度の収入を試算したら約5700万円もの減収と出た。補助額は子ども1人いくらで算出されるが、大規模園は効率的な運営ができるとされ、定員が多いほど1人あたりの単価が低くなる設計だ。いまは幼稚園と保育所部分それぞれ施設長が必要として、2人分出ている施設長の給与補助が1人分にカットされる。
定員が200人以上の大規模な園だと減収になる可能性があり、536人が通う西那須野幼稚園もその一つだった。福本園長は「すべての子どもに最善の保育や教育を提供したいと一生懸命やってきたのに、がっかりする」。幼稚園と保育所を別々に運営すれば、それぞれに補助金を受け取れる。このため別々の運営にし、補助水準を維持したい考えだ。施設が別になっても、日中は幼稚園も保育所もできるだけ一緒に過ごすようにするなど、子どもへの影響は最小限にしたいという。
定員約400人で約3千万円の減収見込みという関東地方のこども園も、返上を検討中だ。理事長は「この補助金の設計で運営を維持しようとすれば、職員の給料を減らし、保護者に利用料を上乗せで負担してもらうしかない」と訴える。
■待機児童解消に影
「返上予備軍」は少なくない。認定こども園を対象に政府が7月に実施したアンケートでは、理由は不明ながら、「幼保連携型」の535園のうち11%が認定を返上すると答えた。
一部の園で収入が減る背景には、補助の地域差もあると政府はみる。幼稚園向けの私学助成が手厚い自治体では、新制度で全国一律の補助水準になることで、減収になってしまう場合もあるという。
ただ、一部の園でここまでの大幅減収や返上の動きが出るとまでは予想しておらず、見通しが甘かったと言わざるをえない状況だ。
政府は「制度に不慣れで事業者が試算を誤っている場合もある」(内閣府の担当者)として8月から、補助金に関する事業者説明会を急きょ開いた。
今月18日に東京で開かれた説明会には約530人が参加。「効率化で園長を1人と言うが、認定こども園は(幼稚園と保育所の)場所が分かれている場合もある。災害の時は誰が指示するのか」「園児が多いこども園が減収になる点について調査をしてほしい」という質問や要望が相次いだ。
新制度でこども園の認定を受けるかどうかは、来年度の入園者の募集開始までに判断する必要がある。多くの園が決断するとみられる10~11月が目前に迫る。
返上が相次げば待機児童解消という大目標に影響が出かねない。政府は対策の検討を急ぐ。補助が急減しないよう経過措置を設けるなどの対応を考えている。
(畑山敦子、田中陽子)
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